あやさきけ2

□自動車
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自動車

 綾崎家は本日お出かけ。
 気温も段々と暖かくなって、春が近いということで、春物の服を買うことになったのである。
 しかし生憎、本日の空は不機嫌のようで、絶賛降雨中である。
 雨の中駅まで歩くのも億劫であるし、せっかくということで、本日は車でのお出かけであった。

「パパの運転も久しぶりだなーっ」
「そういえばそうねえ」

 運転はハヤテ、助手席にヒナギク、そして後部座席にはアイカ。
 電車とは違う乗り物の感覚に、アイカは楽しげな声を上げている。

「都会だと電車の方が便利だからなぁ……こういう時しか車使う機会もないからね」
「ナギの送迎で車は使ってるでしょ?」
「お嬢様の送迎ではね。でも家族の外出で車を使うっていうのはあまりないでしょ?」
「なるほど」

 一つ頷いて、ヒナギクは視線をアイカに向ける。

「だからなのかしらねぇ……我が子のこのはしゃぎっぷりは」
「まあねえ……新鮮なんだろうね。初めて乗るわけでもないのに」

 車窓から見える、ゆっくりと移り変わっていく景色に目を奪われていたアイカは、ヒナギクの視線に不思議そうな表情を浮かべた。

「ん? なぁーに?」
「なんでもないよ」
「そうそう。はしゃぎ過ぎて酔わないようにしなさいね」

 本当に楽しいんだろうなぁ、とアイカの様子にハヤテとヒナギクは苦笑いを浮かべた。
 取り敢えずアイカはこのまま放っておいても良さそうだったので、ヒナギクは話題を車へと移す。

「でも、ちょっと意外だったかな」
「ん? 何が?」
「車」

 そう言ってヒナギクが目を向けたのは、ギアの部分。
 綾崎家の自家用車はAT(オートマチック)車だった。

「男の人って車とか好きみたいだし、ハヤテならAT車じゃなくてMT(マニュアルトランスミッション)車買うと思ってた」
「ああ、そういうことか」

 質問の意図を理解し、ハヤテは言う。

「運転するのは好きなんだけど、車にそこまで拘りを持っているわけではないんだ」
「ほうほう」
「それに、最近はAT車が主流になってきているみたいで、MT車の方が高い場合が多いんだって」
「そうなの?」
「僕も人から聞いた話だから本当かどうかはわからないんだけど……でも確かに、最近見かける車はAT車が多いなって感じだね」
「なるほどねー。希少価値って奴なのかしらね」
「そうかもねー。やっぱり数が少なくなっているんだろうね」
「だからATにしたんだ」
「そういうこと」

 そんな話をしつつ、アイカたちを乗せた車は目的地に向けて走っていく。
 制限速度を守った、安全運転で。

「ねえパパ〜。あとどれくらい?」
「うーん……あと二十分もすれば着くかな?」
「じゃあもう少し楽しめるね!」
「あはは。アイカって本当車に乗るの好きなのね」
「うん! ドライブって楽しいよ!」
「それは良かった。運転のし甲斐があるよ」
「もう……調子乗って飛ばしたりしないでね? ハヤテ」
「はいはい分かってるって。綾崎ハヤテ、安全運転を努めさせていただきます」
「ならよし」

 そんな取り留めのない両親の会話を聞きながら、アイカは再び車窓の外へと目を向けた。
 ハヤテが運転する車から見える景色は、ゆっくりと移り変わっていく。
 忙しく景色が変わる電車と比べると、その様子は本当に新鮮なものだった。

「ハッハッハ! もっとゆっくり走ってもいいのだよパパ!」
「それじゃ後方車に迷惑がかかるだろ」

 だからこそ、もう少し車窓から見える外の世界を楽しみたいと思ったのだが、その要望はハヤテの苦笑によって取り下げられた。

「も〜。パパのケチ!」
「アイカも車に乗るようになったらわかるから」
「じゃあ乗る!」
「もう少し大きくなってからね〜」

 そんな車内での会話を弾ませながら、綾崎家を乗せた車は、目的地へと向かって走る。
 たまには車のお出かけも悪くない。
 そんなことを、家族全員が思った一日だった。


「でも正直、自転車の方がスピード出せて気持ちいいんだよねえ」
「このおバカッ! 安全運転じゃなきゃダメなんだからね!?」



End




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