あやさきけ2

□あやさきさん家のハロウィン
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「そういえば今日ってハロウィンなんだよねー」

 夕食の席についたアイカが、ふと思い出したようにそんなことを言い出したのは、十月も最後の日となった十月三十一日。
 いわゆるトリックオアトリート、ハロウィンだ。

「うん、そうだね」
「だから一応、今日の夕飯にはカボチャとか使ってるんだけど」

 アイカの言葉に私もハヤテもうなずく。

「というか結構ハロウィンに関係のあるもの置いてたりしてたんだけど……気づかなかった?」
「え? そうなの?」
「そうよ。玄関とかにあったじゃない」
「ちょっと見てくる」

 私たちの言葉を受けて、アイカが席を立った。


 去年のハロウィンはハヤテが一人で頑張ってちょっとしたパーティ会場を用意してくれたので、今年はあまり無理をせずにハロウィンっぽいことをしよう、というのが私たちの間での決定だった。
 だから身近なところで、仄かにハロウィンを感じられるようにしていたのだ。

 玄関に小さなカボチャの置物を置いたり、夕飯にカボチャを多く使ったり。

「本当だね。全然気づかなかったよ」

 玄関を見てきたアイカも、ハロウィングッズに気づいたようだ。

「結構分かりやすいと思うんだけど……」
「あはは」
「……なんで気づかなかったのかな?」

 アイカは今まで気づかなかったようだけれど、このリビングの所々にも、自己主張の弱いハロウィンらしきものがある。
 小さなカボチャとか、カボチャを象ったランプとか、電話機の近くにあるメモ用紙がカボチャだったりとか。

「……というかカボチャばっかりだね」
「そこは突っ込まない」

 それなりの数があったが、その全てがカボチャだった。

「なんで?」

 不思議がるアイカに見つめられ、若干たじろぐ私。

 し、仕方ないじゃない。
 私とハヤテの中では、ハロウィン=カボチャだったんだから!

「やっぱりカボチャが一番ハロウィンらしいな、と思ったんだよ」

 返す言葉に困っている私に、ハヤテが助け舟を出してくれた。
 
「ふーん……。でも、そうだね。私もハロウィンといったらカボチャのイメージが強いもん」

 アイカの思考回路も大体私たちと一緒らしい。
 流石は私たちの娘。

「でも今回は仮装とかしないの?」
「え?」
「去年は確か、カボチャとかくり貫いたり色々したよね、パパ」

 その娘が言っているのは、去年のハヤテが頑張ったハロウィンのことだろう。
 冒頭辺りでも言ったとおり、今年のハロウィンはそこまで力を入れないという方針なので、アイカに返す言葉もそれである。

「そうだね。だから今年のハロウィンは力を入れずに……っていうのは変なんだけど、こんな感じにしようってヒナギクと決めたんだよ」
「そうなの?」
「えぇ」
「そうなんだぁ……」
「そうなんだよ」

 ほほーと頷くアイカを少し可笑しく思いながら、私とハヤテは顔を見合わせて微笑む。
 去年のようなハロウィンじゃないことをアイカはどう思うのか、と思っていたのだけど、見た感じでは嫌ではなさそうだ。

 アイカの思考回路も、私たち夫婦と大体一緒、ということはさっき私が感じたこと。

「それにね、アイカ」

 だったら、きっと私が感じていることもアイカはわかってくれるはず。



「こっちの方が私たちらしくっていいでしょ?」


 派手ではないけれど。
 イベントというには静か過ぎるかも知れないけれど、家族で一つの何かを感じたり、祝ったりすることが出来る。
 クリスマスに家族皆でケーキを食べてメリークリスマスと言ったり、お正月にはお餅を食べながら新年の特番を見たり。

 そんな感じが、私たちらしいと思ったから、今回のハロウィンを提案したのだ。

 去年のハヤテの頑張りを否定するみたいでハヤテに言うのはとても憚られたのだけど、

『うん、僕もそっちの方が僕たちらしいと思う』

 そう言ってくれた。
 嬉しくてキスしちゃったわよ、思わず。

 これが、私たち夫婦の一存で決まったハロウィンの方針なのだった。

「アイカは去年とどっちが好きなのかしら?」
「私、は」

 少し前のハヤテとのやり取りを思い出しながら、アイカの返事を待つ。
 思案顔をしながら、眼前の夕飯を見て、周りを見回して、そして私たちの顔を交互に見たアイカは。


「……私もこっちの方が良いかな」


 そう言ったのだった。

「なんかこっちの方が落ち着くんだもん」
「そっか」

 アイカの言葉に私たちは笑った。
 アイカが私たちと同じ事を思ってくれたのが、嬉しかった。

「じゃあ夕飯の続きだね」
「そうね」
「うん!」

 家族の総意も決まったところで、私たちは再び夕飯を食べ始めた。

「……カボチャのスープちょっと冷めちゃったね」
「暖めなおす?」
「ううん、十分美味しいからいい」
「……そう」

 外国でやっているような賑やかなものではない、私たちのハロウィン。
 トリックオアトリートであげるようなお菓子もなければ、カボチャの切り抜きもないけれど。

「……本当だ、美味しい」


 家族で楽しむ位には十分すぎた事が嬉しくて、私は一人、小さく笑ったのだった。



 カボチャのスープは冷めていたけれど、身体が温まったのはきっと、家族のお陰だろう。







 …





「トリックオアトリート、ヒナ! お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞー!」
「トリックオアトリート、ヒナちゃん! お菓子をくれなきゃ悪戯するよー!」
「トリックオアトリート! お金貸してヒナ!」
「帰りなさい。特に最後」


 その後、突然仮装姿で玄関に現れた友人と姉に言い放った言葉がとても冷ややかなものだったのは、言うまでもない。




End




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