book3
□眠気やらインターンシップへの緊張とかなんやらでささっと書いた小話
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とある日の、二人の会話。
場所はもはや定位置と化してきている、生徒会室にて。
勤勉な生徒会長と変わらずサボり癖全開の生徒会ブルーは、紅茶を飲みながら、のんびりと午後の時間を過ごしていた。
ゆったりと流れる雲。それにシンクロするかのように、ゆっくりと流れる時間。
窓外から聴こえてくる部活に勤しむ生徒たちの声が、平和を強く感じさせる。
そんな時、ブルーこと花菱美希が唐突に言った。
「なあヒナ」
「何よ美希」
目線は相変わらずフラットなヒナギクの胸部から少し下に下げて。
「……お前、太った?」
――ポカ!
「……痛いじゃないか」
「乙女に向かって失礼なのよ、アンタは」
「事実だろう?」
相手が相手なら、卒倒するような一撃を食らってもおかしくないレベルの暴言。
音からも分かるように軽めにヒナギクが叩いたのは、相手が女の子だからか、それとも美希だったからなのか。
どちらにせよ、美希の問い掛けに首を横に振らないということは、ヒナギクの中でもそれなりに自覚があるということだ。
「で? 何キロ?」
「……二キロ」
ぼそっ、と呟かれたヒナギクの言葉に、美希は固まる。
「……結講太ったな、お前」
「う、うるさいわね」
バツが悪そうな表情を浮かべながら、ヒナギクは紅茶を啜る。
美希は違和感を覚えた。
普通女の子ならば体重を気にするというのは当たり前のことだと思う。
ましてやヒナギクは女の子らしくあることに人一倍気を使っている。
だが、今のヒナギクからはそれほど体重を気にかけている様子は見られない。
(そういうことか)
しかしヒナギクに覚えた違和感も、ある事柄と結びつければ簡単に解消される。
理由は、間違いない。自分の読みで当たっているはずだ。
昔からヒナギクを見てきたからこそ、分かる。
ヒナギクの些細な挙動の変化も、ヒナギクがこの後に返すであろう言葉も。
「良いのか? 二キロって結講デカイけど」
「良いのよ、今は」
この後訪れるであろう展開に思わずため息を吐きながら、美希は言う。
「……どうして?」
「だってそれは――」
紅茶を置いて、ヒナギクは笑顔で言う。
「――幸せ太りなんだから」
「……やっぱりな」
「え?」
分かりきった事でも声に出して聞いてしまうのは、こんな彼女の幸せそうな笑顔が見たいから。
きょとん、とするヒナギクに、美希はやや呆れた口調で、笑った。
「いや、何でもない」
ゆったりと、ゆっくりと時間が流れる午後の一時。
ハヤテとヒナギクが付き合い始めてから、あまり月日が経っていないある日の一場面のことだった。
End
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