短編 2nd

□散らない桜
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 桜が満開だということで、僕はヒナギクさんと花見に来ている。
 屋台や出店で食べ物を食べる、というのが目的ではなくて、言葉通り『花』を『見』に来たのだ。

「綺麗ねー」
「そうですね」

 お嬢様達はいない、二人きりで歩く並木道。
 ヒナギクさんはとても無邪気に、桜に見とれている。

 ―――綺麗、だと思った。

 桜を見つめる琥珀の瞳も、整った横顔も、桜吹雪と共に風に舞っている桜色の髪も。
 美しく咲いて僕を魅了する、まるで彼女は『桜』だった。

「ヒナギクさんって、桜みたいですよね」
「え?」

 と、思ったことが口に出て、ヒナギクさんがこちらを向いた。

「私が桜?」

 言葉の意味がわからないらしく、可愛いらしく首を傾げている。
 そんな彼女に、僕は言った。

「はい。綺麗だし、なにより髪が桜色ですし」
「そんな……恥ずかしいわよ」

 ヒナギクさんの頬が桜に染まる。正(まさ)しく桜だ。

「本当ですよ。
 本当に綺麗で―――」

 謙遜する彼女にもっと誇るべきだと、そんな感じにいうつもりだったのだが、口を出かけた言葉に気付き、むりやり押し戻した。

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