短編 2nd
□散らない桜
1ページ/3ページ
桜が満開だということで、僕はヒナギクさんと花見に来ている。
屋台や出店で食べ物を食べる、というのが目的ではなくて、言葉通り『花』を『見』に来たのだ。
「綺麗ねー」
「そうですね」
お嬢様達はいない、二人きりで歩く並木道。
ヒナギクさんはとても無邪気に、桜に見とれている。
―――綺麗、だと思った。
桜を見つめる琥珀の瞳も、整った横顔も、桜吹雪と共に風に舞っている桜色の髪も。
美しく咲いて僕を魅了する、まるで彼女は『桜』だった。
「ヒナギクさんって、桜みたいですよね」
「え?」
と、思ったことが口に出て、ヒナギクさんがこちらを向いた。
「私が桜?」
言葉の意味がわからないらしく、可愛いらしく首を傾げている。
そんな彼女に、僕は言った。
「はい。綺麗だし、なにより髪が桜色ですし」
「そんな……恥ずかしいわよ」
ヒナギクさんの頬が桜に染まる。正(まさ)しく桜だ。
「本当ですよ。
本当に綺麗で―――」
謙遜する彼女にもっと誇るべきだと、そんな感じにいうつもりだったのだが、口を出かけた言葉に気付き、むりやり押し戻した。