短編
□暑くない理由
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「なぁヒナ…」
「何よ?」
「………暑い」
九月にはいったというのに、夏の天気をそのまま持ってきたような日。
毎度、何かが起こる生徒会室から洩れてきたのは、正に『うめき声』であった。
中を覗けば、豪華なソファに横たわる馬鹿三人と、会長の机で仕事をするヒナギク、そして今ではそれが仕事とでも言うように、ヒナギクの手伝いをするハヤテの姿があった。
これは今では馴染みある光景に違いはないのだが…
いつも騒動を持ってくる三人に、今日は元気がない。
…いや、『生気』がないと言ったほうが正しいか。
団扇片手に虚ろな目で天井を見上げるその姿は、某人型決戦兵器の精神が壊れてしまったパイロットを見ているようであった。
では何故、彼女達がこのような状態なのか?
それは、冒頭でも書いてあった――
「「「………暑い…」」」
――そう、暑さである。
団扇で己を仰ぎながら唸る三人に、ヒナギクは視線を向けた。
「アンタたちね…そんなに暑いなら帰ればいいでしょ?」
仕事もしないんだから、と嘆くその表情は、ほとほと呆れ返っている様子。
そんなヒナギクに、三人はまるで瀕死の如く答えた。
「…帰れるなら帰りたいよ…」
「でも…原因不明の停電。
しかも我が校一帯のみの停電により…クーラーも点かない…」
「揚句、エレベーターも止まって帰れないし、窓を開けても風が入らない…」
「「「それで、どうしろと…?」」」
「う゛……」
とうとう頭がおかしくなった人のような三人の目に当てられ、思わずヒナギクは口ごもってしまった。
とそんな時、今まで一言すら話すことのなかったハヤテが、
「ヒナギクさん、これ終わりましたよ」
そう言ってヒナギクに束となったプリントを渡してきた。