あやさきけ

□朝から物騒な綾崎さんち ※修正中
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「アイカ―――!!!」


 朝の三千院の敷地内に、悲鳴にも近い怒声が響く。
 我らが主人公、綾崎ハヤテは、その声を目覚ましに起床し、呟いた。


「―――またか…」


 目覚ましのベルにしては少々物騒だ。
 ため息を一つ吐いて、ハヤテは苦笑を浮かべながらクローゼットの引き出しを開けた。



『朝』



 執事服に着替え、ハヤテはリビングに向かう。
 先ほどの悲鳴はそこから聞こえてきた。
 リビングの扉は閉じられたままだが、中の様子が安易に想像出来てしまって少しばかり頭痛がする。

「……おはよ」

 挨拶をしながら中を覗けば案の定、予想通りの光景が広がっていた。
 そのことにまた一つため息を吐きながら、ハヤテはもう一度挨拶した。

「…おはよう。ヒナギク、アイカ」
「はぁ、はぁ……。お、おはようハヤテ」
「おはようパパ♪」

 そんな彼に挨拶を返す、二人の人間。
 妻のヒナギクと娘のアイカである。

「えーと…今日は何?」

 二人が挨拶を返した場所は、散らかりに散らかった洗濯物の山の中で、ハヤテは取り敢えずヒナギクに現状の説明を頼んだ。


 だいたい理由はわかるのだけれども。


「はぁ…ア、アイカが」

 ハヤテの言葉に、ヒナギクが答える。
 肩で息をする妻を見て、若干同情の念を抱かんでもない。

「…アイカが、また貴方のTシャツ被って暴れたのよ。折角畳んでたのに……」

 心地よい朝だというのに、ヒナギクの顔には早くも疲れの色が浮かんでいた。

「パパのTシャツくらいいいじゃん! ママのけちんぼ!」

 そんなヒナギクの言葉に、ハヤテのTシャツを被ったままのアイカが口を尖らせて反論した。
 中々シュールである。
 そんなアイカをあしらうように、ヒナギクはつーんと答える。

「けちで結構よ。ハヤテのTシャツは駄目なんだから」
「家族なんだからいいでしょ―――!」
「駄目」
「ケキャ――!!」

 アイカが謎の怪鳥音を上げた。

「意地悪! こうなったらこの服もう返さないんだからね!」
「はぁ……」

 ハヤテのTシャツを死守せんとするアイカに、ヒナギクは自身のこめかみを押さえる。

「全く誰に似たのやら……」
「ママだと思う」
「何ですって……?」
「まぁまぁ…」

 ふふん、と鼻で笑った娘をヒナギクが睨む。
 そんなヒナギクをハヤテが宥めた。

「アイカもまだ小さいしいいじゃないか。僕も手伝うから二人で畳もう?」
「もぅ…そうやってハヤテが甘やかすから……」
「はは……返す言葉もありません」

 乾いた笑みを浮かべるハヤテを見て、ヒナギクはため息を吐いた。

「…しょうがないわね。じゃあ二人で畳みましょうか」
「そうだね」

 夫婦互いに頷きあって、散らかった洗濯物を再び畳み始めた。
 流石というかその手際は恐ろしく良く、山のような洗濯物は見る見るうちに綺麗に畳まれ重ねられていく。


「………」


 夫婦二人が仲良く洗濯物を畳む様を見て、手持ち沙汰になったのはアイカだ。

「あー…うー」

 手伝うか、と思ったが今ヒナギクに大見えを切ったばかりである。
 自分には大きすぎるTシャツの裾を握りながら、唸るだけ。

「………クス」

 そんな娘の様子を横目に見つつ、ヒナギクは小さく笑った。
 ハヤテに目をやると、彼の視線もアイカへと向けられていた。

「ねぇハヤテ」
「うん、そうだね」

 ヒナギクの言葉にハヤテはすぐに首肯した。
 自分の言いたいことがハヤテにもわかっていたようで、それが嬉しい。

 緩む頬を隠そうともせず、ヒナギクはアイカに言葉を掛けた。


「ねえアイカーー?」
「………なによぅ」
「貴女の洗濯物くらい自分で畳みなさーい」
「…………」

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