book3
□イヴでも忙しい人は忙しい
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02
「全く……手が必要なら言ってくれれば良かったのに……」
呆然としていたヒナギクに、声が掛けられた。
その声はヒナギクの右から。
視線を移してみると、そこには。
「ハヤテ君!?」
今まで思い浮かべていた、自分の好きな人。
どうしてここにいるのか、という疑問を抱くよりも早く、ハヤテが口を開く。
「実は、僕だけじゃなかったり」
ハヤテが笑顔でそう言いながら、自身の体を少し横にずらす。
その後ろからは、もう一つの人影が現れた。
それを見て、ヒナギクは今度こそ驚愕する。
「え……!?」
「…………よう」
小さい体躯に、綺麗な金髪のツインテール。そして今や見慣れた、せっかくの整った顔立ちを、年中不機嫌にしているその人物。
「ナギ!?」
「何だか散々な言われようだな……」
驚きの余り、傍らのハヤテに目をやる。
ハヤテはニコニコと、相変わらずの笑顔だった。
「どうしてここに……」
「どうしてもなにも、手伝いに来たのではないか」
ナギが呆れながら言う。
しかし今日はパーティの準備があるとかで、二人は直ぐに帰宅したのではなかったのか。
ヒナギクの内心を読んでか、ハヤテが言う。
「実は先程千桜さんから連絡がありまして、ヒナギクさんの仕事を手伝って欲しい、と」
「……パーティの準備は問題ない。マリアとカユラ、それにハムスターもいるからな」
パーティの方はどうやら、他の参加者で人での方は問題ないらしい。
だからこそ、二人は自分を手伝いに来てくれたのだ。
「でも、まさかナギまで来てくれるなんて……」
「ですよねー」
ハヤテが来てくれたのは、なんとなく分かる。
彼はこれまでもそうだったから。
しかし、ナギが来てくれたのは今までに一度もない。
今回が初めてだった。
「最初は僕だけが行くつもりだったんですけど、そうしたらお嬢様も「私も行く!」と言い出しまして」
「そうなの?」
ナギに目をやると、ナギは恥ずかしそうに顔を逸した。
「べ、別にただの気まぐれだ! その……何もクリスマスイヴまで一人寂しく仕事をしているのもどうかと思っただけなのだ! 他意はない!!」
ナギを見ながら、ハヤテが 「こんな感じです♪」 と笑いながら言った。
そんな二人を見て、ヒナギクはクス、と静かに笑う。
「…………ありがとう」
「ふ、ふん! 礼はまず仕事が終わってからだ! とにかく、パーティまでにちゃちゃっと仕事を終わらせるのだ!」
「はい、お嬢様。というわけでヒナギクさん、指示をお願いしますね」
寂しい、なんて気持ちはもうない。
愚痴も、不平不満も今はない。
今は二人の存在がただただ頼もしく、嬉しくて。
「分かったわ! さっさと終わらせて帰ってやろうじゃない!」
書類の山だって、疾風の如くなくなるだろう、そんな気がしていた。