あやさきけ
□昔話に今話
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これは昔の話。
アイカが生まれるよりもっと前の、私が高校生の頃の話。
…
季節は巡り、私とハヤテ君が出会ってから早一年が経っていた。
時の流れを、まるで激流のように思う二月十三日に、私は台所に立つ。
「……明日」
目的は一つ。
好きな人に想いを伝えるため。
好きな人、とは今更ながら綾崎ハヤテ君のことだが、私は明日本心を出して彼に告白しようと思う。
何故今頃、というのは、単純な話。
ハヤテ君を狙うの女の子たちのアタックが強くなって来たからだ。
歩は言うまでもなく、アテネやナギ…。
おかしいくらいの美少女達がハヤテ君を手に入れるため、様々なアクションを仕掛けて来ている。
それは『待ち』の姿勢をとった私にとって本当に心臓に悪かった。
――ここまでやられても気付かないハヤテ君は正直頭が悪いと思う。
That is why.
そんなわけで。
私は昨夜、経営時間の終了した喫茶どんぐりで歩に話した。
――明日想いを伝えるわ。
――あ、やっぱり。そろそろ限界かなぁなんて思ってましたよ。
私の言葉への返答は至ってシンプルで、私の予想を超えていた。
てゆーか、見透かされた感じがものすごくムカついた。
ともあれ、そんな事を回想しながら立っているわが家の台所はいつもと違った感じがする。
当然気のせいなのだけれど、明日に懸ける意気込みからか、何だか全てが私を応援しているように見えるのだ。
一生一大の大勝負に勝てるためのウェポンとして私を励ますかのように。
「……待ってなさい、ハヤテ君…!」
台所に勇気付けられるという奇妙な錯覚の中、私は意気込みと共にチョコを刻み始めた。
…
――翌日。
出来上がったチョコを持って時計塔へと上る。
ハヤテ君は手紙で呼び出した。
来るかどうかはわからないが、私はハヤテ君が来てくれる事を祈って生徒会室の扉を開ける。
生徒会室には誰もいなかった。
あらかじめ美希達には言っておいたからわかるが、私よりもハヤテ君が来ていては困ったのでホッとした。
出合い頭に告白する勇気まではなくて、こうして心の準備をするために時間を置いたのだから。