短編 2nd
□ひろいんひーろー
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――銀杏商店街にて行われる、『春のシルバーフェスティバル』。
一見一聞するとパッとしないネーミングなのだが、実際、パッとしない内容を例年催してきた。
どうせ今回も同じなんだろうな〜なんてしみじみ思いながらこの商店街を歩いていた頃が懐かしい。
(―――だって…)
そう。『懐かしい』のだ。
「――らぁっ!」
「ちぃっ!!」
溢れる拍手、声援。
壮大な爆発音に背後から沸き上がる花火。
それらを実際目にして思うのだ。
「ブルー!」
「わかってます…っ!」
――いつからこのパッとしないお祭り…ヒーローショーは、こんなに人気(ひとけ)溢れるものになったのかと。
――今年からか。
…
私が戦隊ヒーローの、しかもレッドをやることになったきっかけは本当たいしたことではなかった。
『たまたま白皇学院がこの祭に関与することになって、たまたま生徒会が視察に来ていて、たまたま本来レッドをやる人が怪我をしてしまって、たまたま居合わせた私が代役を務めることになった』、以上。
何と簡潔に纏まるきっかけなのだろう。
『たまたま』が四乗する程度のものとは。
ちなみに、数日後にたまたま広場を訪れたハヤテ君がたまたまブルーになったのも実にたまたまである。
――あ。七乗になった。
(まぁその御蔭で奇妙な展開になってるし…ねっ!)
ざっついずほわい。
そんなわけで、今までの至極簡潔な経緯を誰になく説明しながらも、今はそのヒーローショー本番真っ只中なのである。
…
鮮やかに繰り出される敵の剣技は鋭い。
子供向けの催し故得物も子供仕様だが、真剣ならば気を抜けばぽっくり逝ってしまうかもしれなかった。
ナギったら中の人が私と知らずに、達人クラスを連れてきたわね……。
「わっ…と」
休む間もなく来る攻撃を何とか凌ぎながら私は敵と距離を取る。
当然私一人じゃ達人クラスなんて相手に出来ない。
それでも私がやられずに戦っていられるのは、ヒーローが負けるはずがないという、子供達の希望に溢れた理想を考慮しただけではなかった。
「――!」
下がった私の横を、一陣の風が抜ける。
――そう、これはヒーローショー。
・・
戦隊ヒーローショーなのだ。
私がこんなに簡単に敵から後退できるのも、達人クラスと互角にやり合えているのも――。
「畳み込みます!
行きますよレッド!!」
「任せて!」
――二人しかいないという可笑しな戦隊ヒーローのリーダーである私の相棒が、どうしようもないくらい頼りになって、カッコ良かったからである。