中編小説

□うましか(鹿編)
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 高校時代の友人から、母校へ行かないかと連絡があった。なんでも高校野球の全国大会に初出場が決まり、卒業生や現地に行けない在校生のためにパブリックビューイングが行われるらしいのだ。
 お盆休みと重なるとはいえ、その後輩たちは顔も名前も知らない。僕たちが在学中にいた先生たちもほとんど残っていないだろう。渋っていると、こんなことでもないとなかなか集まれないからさ、と説得され、結局行くことにした。
 電話を切ってベッドに倒れ込むと、ふと一人の同級生のことを思い出した。一年生のときに同じクラスになっただけで、ほとんど話したことがない同級生だ。卒業して八年。大学時代も就職してからも思い出すことなんてなかった。接点も思い出も共通の友人もいないただの同級生だけど、こんな些細なきっかけで思い出すとは。彼女はこの集まりに来るだろうか。もし会えるなら、話しておきたい笑い話がある。ずっと温めていた話だ。きっと彼女は笑ってくれる。




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