短編小説

□そんなふたりの恋の距離
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「大ちゃんどうしたの、用事ー?」

「いや、なんとなく。しばらく来てないなって」

「連絡くれれば起きてたのにー」

「良ちゃんも連絡くれたら来なかったのに」

「なんでー?」

「美桜がいるなら来なかったってこと」

「美桜ちゃん? いつもいるよ」

「あ、そう……」

 ついにため息。連絡するまでもなく、いつ来ても美桜がいるってことか。


「大ちゃんにはもう部屋にいたずらしないよう言っておいたから。また何かしたら、次に大ちゃんと会うのは法廷」

 ココアをテーブルに置きながら、美桜は何やら恐ろしいことを言う。それを聞いた良ちゃんは「こわいこわい」と笑った。


「じゃあ良くん、わたしこれから打ち合わせあるから行くね」

「うん、ハンバーグ」

「はいはい。大ちゃん、またね」

「ああ、うん……」

 なんて言葉が少ないふたりだ。良ちゃんらしいっちゃあ良ちゃんらしいし、美桜らしいっちゃあ美桜らしいけど。

 良ちゃんとは長い付き合いだから、みんなからよく「大輝は良ちゃんの保護者」とか「ド天然の良ちゃんをうまく扱えるのは大輝」とか言われるけれど。一番の保護者は美桜だと思う。






「……で、良ちゃんはさあ」

「うん?」

 美桜が淹れたココア入りのマグカップを両手で包み込むようにして飲みながら、良ちゃんは首を傾げる。

「美桜のことどう思ってんの?」

「美桜ちゃん? いいこだよねー」

「そうじゃなくて」

「ううん?」

「付き合う気はあるのかってこと」

「あ、うん? 付き合うって、付き合う? ってこと?」

 俺が言ったこと繰り返しただけじゃねぇか。

「美桜ちゃんいいこだしねー」

それもさっき聞いたわ。

「楽しいだろうね、美桜ちゃんと付き合ったら。一緒にごはん食べたりテレビ観たりお茶飲んだりして」

 一緒に飯食ってテレビ観て茶を飲むのが付き合うということなら、もうそれすでに付き合ってんじゃねぇか! 今まさにそういう状態じゃねぇか!

 ああ、もうなんで俺が良ちゃんと美桜のことをこんなに気にしなくちゃいけないんだ!
 ああ、あほらし!

「あ! わかった!」

 のほほんとココアを啜っていた良ちゃんが突然へらっと笑って、びっくりして肩が跳ねた。

「なにが?」

「美桜ちゃんと一緒に住めばいいんだー」

「は……、は?」

「そしたら毎日一緒にごはん食べられるし、テレビ観れるし、お茶飲めるね!」

 まあそうだろうけど、ええ? いきなり同棲?
 ていうか今も同じようなことやってるだろうが。

 何年一緒にいても、良ちゃんの考えていることはいまいち分からん。


「大ちゃんあたまいいねぇ」

 もういい、諦めた。
 ふたりは付き合うとか付き合わないとか関係なく一緒にいて、こういう距離がちょうど良いのだろうから、外野がとやかく言うことじゃない。

 ない、けど……。

 ただこれだけは言いたい。ほんと、ただ一言だけ。

 いい加減くっつけ。



 どっと疲れが出て冷めかけたコーヒーを飲み干すと、良ちゃんは携帯を取り出して誰かに電話をかけ始めた。
 相手は勿論美桜。

「あ、もしもし美桜ちゃん? あのさあ、今大ちゃんと話してて思いついたんだけど、結婚しない?」

 ちょっと待て、それは飛躍しすぎだ!






(了)

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