短編小説
□その影は恋を知る
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稽古後にスタッフみんながパソコン前でわいわいやっていた。
どうやら稽古中に撮ったブログ用の写真を見ているらしい。
その輪に大ちゃんも入って、ひと際大きな笑い声。
気になって覗きに行ってみると、みんなが見ていたのは無表情でカメラ目線の大ちゃんの写真だった。無表情はちょっと可笑しいけれど、いつも笑いの中心にいる大ちゃんだし、通常運転っぽいけれど。
不思議に思っていると「違うんだよ歌詠ちゃん」と、涙目のスタッフさんが説明してくれた。
「ブログに毎日キャストの紹介と写真を載せてたんだけど、今日は歌詠ちゃんの日だったのね」
「だけど撮った写真全部に大輝くんが写ってて」
そう言われて改めて写真を見ると。確かに。無表情の大ちゃんの背後に、わたしの腕らしきものが写っている。他の写真にも足だったり髪だったり、わたしかどうかも判別できないものばかり。
その全てに、出番待ちと思われる大ちゃんがばっちり写り込んでいて……。ていうかもう写り込むというレベルじゃない。
「大ちゃん確信犯でしょー!」
「あ、ばれた?」
「やめてよ! 知らないひとが見たら、このでっかいムキムキ男が小清水歌詠なんだーって思うじゃない!」
「思わない思わない」
大ちゃんは大きな口を開けてあははと笑って、わたしの背中をたたく。
その口に拳を突っ込んでやりたい衝動に駆られたけれど、寸でのところでとどまった。
「大ちゃんって身長いくつなの?」
「俺おっきいよ、百八十七」
「やっぱり百九十近いんだね。横に立たれると岩か巨木かと思うもん」
「岩か巨木ってひどいな」
実際その巨体でわたしを隠してしまっているのだから、あながち間違いではない。
大ちゃんは好物が米と肉というストレートな嗜好の持ち主であるし、その大きな口でもりもり食べてこんなに大きくなったのかしら。特に最近の趣味は筋トレらしく、数年前初めて会ったときよりもずっとがたいが良くなっている。
大川大輝という名前通りに大きく成長しているなと思った。
「歌詠ちゃんもいっぱい食べて俺みたいに大きくなるといいよ」
「大ちゃんみたいに大きくなってどうするの」
でも確かに大ちゃんくらい身長があったら、見える景色もだいぶ変わってくるんだろうな。ていうかまずその身長があったら役者はやっていないかもしれない。
「大ちゃんって身長だけじゃなく、筋肉とかおっぱいも立派だもんね」
「女の子がおっぱいとか言わないの」
「おっぱい触ってみてもいい?」
「いいけどおっぱい連呼しないの」
「じゃあお乳触らせて」
「お乳もやだなあ」
手を伸ばして触った大ちゃんの胸はすごい筋肉で。胸板が厚いというのはこういうことなんだろうなと思った。