短編小説

□ロマンチックな恋
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 吸い殻でいっぱいになった灰皿にぐりぐりと煙草を押しつけて、ベッドで健やかな寝息をたてるヤマトを見遣る。
 さっきかけてあげた毛布はもう蹴り飛ばされて、すでにパンツ一丁。いつものことだ。親指を使ってボリボリとお腹をかく癖も、「な、ながいエイリアンがぁ……」という意味不明な寝言もいつものこと。それにしても今日の寝言はいちだんとひどい。長いエイリアンってなんだ?
「ヤマト、風邪ひきよ」
「エイリアンが……つよい……」
「そうだね、強いね」
 意味不明な寝言を肯定しながら、毛布をかけ直してあげる。きっとまたすぐ蹴り飛ばされてしまうのだろうけど、だからと言ってこのままにしていたら風邪をひいてしまう。
 付き合い始めて一年。食事も掃除も洗濯も適当なヤマトを心配して、仕事帰りに部屋に寄るようになって半年。ずぼらなヤマトの世話はもはや日常茶飯事。なんでもない日常。
「マコー」
「ん?」
「マコはおれがまもるー」
「あっは。ありがとう」
 これがわたしの、なんでもない日常。

 ふ、と。こんな言葉を思い出した。
 ロマンチックな恋だけが恋ではありません。本物の恋とは、オートミールを掻き混ぜる行為のように平凡で当たり前なのです。
 ロバート・ジョンソンの言葉だったか。
 確かにそうだと思った。ヤマトとわたしの恋は、決してロマンチックではない。だけどわたしはこの生活が気に入っているし、楽しんでいる。むしろヤマトが夜景を見に連れて行ってくれたり、花束をくれたりしたら、似合わなくてきっと笑ってしまうだろう。
「ああっ、マコがエイリアンのえじきにー、わかったマコ、マコのこういはむだにしないよー、ありがとうマコー、あいしてるよー」
 そんな寝言を聞いてもう一度笑って、わたしもベッドに潜りこんだ。




(了)



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