□記憶の中の…
1ページ/2ページ






「恭ちゃん!」




そう言って僕の後ろをくっついて回っていた君





記憶の中の君




僕達は幼なじみというものだった

いつでも君は僕の後をついてくる

くるくるでふわふわの髪の毛を揺らしてその大きな目で僕を見ていた君

一緒の幼稚園に通って

一緒に公園で遊んで

年齢は違うけど本当にいつも一緒に居た

君はいつでも僕に笑いかけてくれて

群れが嫌いな僕でさえ君となら群れていたんだ

普通の子なら僕を見ると一目散に逃げていくんだけど君は違う

にこにこと逆に近寄ってくる

小動物みたいだ

僕は君の頭をなでるのが好きだった

そのふわふわの髪は気持ちよくていつまでも触っていたいと思ったんだ


初めて君に出会ったのはいつだっけ

たまたま通りかかった公園で一人泣いてる君を見かけたのが最初かな

今考えても僕はあのとき何故あんな行動をとったのか分からない

柄にもなく君に話しかけて

なかなか泣き止まない君にたまたま持っていたイチゴ味の棒付きキャンディーをあげたのを覚えて居る

それからだね、君と一緒に居るようになったのは

家の都合とか何とかで男の格好をしていると言った君

自分のことを「俺」なんて言うようになって

名前も偽名を使わされて居るとも言ってたね


「俺、ホントは沢田夏茄(サワダ ナツナ)って言うんだ」


出会ってしばらくして君が教えてくれた君の本名

本当にあの頃は楽しかったんだなって思う

自分でもこんな暖かい感情を抱くとは思ってなかった

これからもそんな日常が続くとばっかり思っていたんだ


なのに


なのに、現実はそう甘くないね

君が交通事故に遭ったと聞いたのは君が事故に遭ってから3日過ぎた日のことだった

心配で、心配で

とにかく心配だった

外傷は特になかったけど頭を打って意識が戻らない日が続いた

だから君が意識を取り戻したと聞いたときは本当に安心した

けれど、神様ってのは残酷だね

僕達のことはもちろん親も知って居た

それでお互いの母親が仲良くなったからね

そのおかげで君のお見舞いにはすぐ行けたんだ

でも

「…だれ?」

君は僕のことなんて覚えて居なかった

頭を打って一部の記憶が抜け落ちたのだと医師は言っていた

その日から僕は君に会わなくなった

母親に心配されたけどそんなのかまうものか

人に忘れられるって結構悲しいものだと思った


それが僕が5歳で君が4歳の時



あれから10年の時が過ぎた

僕は徹底的に君に会わないようにした

君は僕のことなんて覚えて居なくて

でも僕は覚えて居て

10年たった今君が何故男装させられているのかようやく分かった

マフィア絡みのことだって

だから僕は君の雲になった

今、時々見かける君の髪の毛は触らなくても分かるぐらいごわごわだ

ウィッグってヤツだろう

そしてたまに君と会うと君は決まってその目に恐怖を映す

だから僕は君を遠くから見守ることしかできない

ほら、今日もまた君は番犬2人と帰っていく

僕はそれを応接室の窓から見守ることしか出来ない

本当なら、君の隣は僕のはずだったのに

番犬は知って居るのかな

君が女の子だってこと

本名が「沢田綱吉」じゃないってこと

君の髪の毛がふわふわだってこと

そしてなにより

今の君が心から笑ってないってこと

何か悩み事でもあるのかな

そんなの僕が聞いてあげられる立場じゃないけれど

僕の心の中にぽっかりと空いたこの穴はいつか埋まることがあるのかな


そんなことを考えながら僕は風紀委員が持ってきていたイチゴ味の棒付きキャンディーを口の中で転がし

ガリッとかみ砕いた






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ