頂き物
□戻ってきた日常
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『銀時。あとの事は頼みましたよ』
『なァに、心配はないよ』
『私はきっとスグにみんなの元へ戻りますから。だから…それまで』
『仲間を、皆を…………
護ってあげてくださいね』
『約束、ですよ』
「っ、…………はぁ…」
久しぶりに昔の夢を見た銀時は、やけにモヤモヤとする頭を押さえて起き上がった。
外を見れば、漸く空が明るみ始めた頃で、鳥たちの鳴き声が微かに聞こえてくる。
しかし、彼には珍しくぱっちりと目が覚めてしまい、二度寝する気にもなれなかったので、そのまま布団を片付けてから着替える。
時間を確認すれば、まだ5時。
流石に、新八もこんな早い時間には万事屋に来ない。神楽については言うまでもないだろう。
適当にぶらついてくるか、と銀時は木刀を腰にさすと、机の上に少し散歩してくるという旨の置手紙を残し、出かけることにした。
少し前に雪が消えてもうすぐ春になるとはいえ、早朝の外はまだ肌寒かった。
銀時は首に巻いたマフラーに顔をうずめるように首を縮め、まだ静かなかぶき町を歩いていく。
歩きながら、銀時はさっき夢に出て来た師である松陽の事を思い出していた。
『屍を喰らう鬼』と呼ばれ、恐れられてきた自分を『人の子』へと変えてくれた松陽。
人並みの幸せを与えてくれた松陽。
生きるための知恵を、生きる術を教えてくれた松陽。
小太郎や晋助と言った、大切な幼馴染を作るきっかけを与えてくれた松陽。
そんな師との約束。
―――――皆を護ること
自分は、きちんとその約束が守れたかと思い返す。
松陽が幕府に連れて行かれてから、彼を取り戻すために仲間たちと共に剣をとった。
『白夜叉』『化け物』と呼ばれる程に天人を斬って、白い戦装束が真っ赤に染まるほどの血を浴びて、己自身も血を流して。
松陽がそんな自分を見てどう思うか、そんな事は何度も考えた。
しかし、銀時は戦う事をやめなかった。
松陽を助けるためもあるが、それ以前に約束を守る……戦争に出ると言った仲間たちを護りたかったから。
松陽の斬られた首を見た時、これは松陽との約束を守れなかった自分への罰なのか、と思った。
結局残ったのは、松陽も仲間の命も失ったという事実だけだった。
そこで戦う理由を見失ってしまった銀時は、戦場から離れた。戦う事をやめた。
一人で彷徨っていたところでお登勢に出会い、万事屋を開き、今の家族である新八や神楽、定春と賑やかで楽しい日々を送って来た。
晋助とは道を違ってしまった時もあったが、戦場で出会った仲間である辰馬のおかげで仲直りすることも出来た。
今では多くの仲間に囲まれ、その仲間たちと毎日楽しく過ごしている。
(先生……。今度こそ、先生との約束を守れるように…今の仲間たちを護れるように強くなるよ)
そう銀時は思い、来た道を戻っていったのだった。
【戻って来た日常】
「あ、銀ちゃん帰ってきたアル!」
「おはようございます、銀さん。もうご飯の準備できてますよ」
銀時が散歩から帰って来ると、もう既に新八は来ていて、神楽も目覚めていた。
「おー。悪ィ」
銀時は苦笑すると、神楽と新八の頭を撫でた。
「……いきなり何アルか、銀ちゃん」
「どうかしたんですか?」
訝しげな2人に、銀時は何でもねェよ、と言った。