捧げ物

□祝20000hit記念
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たまがたどり着いたのは曇り空が広がる道の上だった







(ここは過去なのでしょうか…)







あたりを見渡すと遠くの方に人が一人立っているのが見えた







よくよく近づいてみるとその人物は手に縄をかけられていて近くの木につながれている







気になってもう少し近づくと相手が此方に気がついた







「早くここから離れてください」







そう言う人物は男か女か分からないような中性的な顔立ちをしていた




しかし声からして男だと言うことが分かる







「…あなたはここで何をしているのですか?」







「………見ての通り、です。捕まってしまいました…使者達は今別の用事でここには居ませんが近いうちに帰ってくる恐れがあります。早くここから逃げてください」







「あなたは逃げないのですか?」







「この状況では逃げるなんてこと不可能に近い」







そう言って男は自嘲じみた笑みをうかべた







「1つ、お願いをしてもいいですか?」







「私に出来ることなら」







「ここから少し西に行くと小さな村があるんです。おそらくそこに子供達が集まっていると思います…その子供達に伝えて欲しいのです。『君たちと過ごせて本当に良かった。幸せになってください』と」







「あなた自身で伝えた方がよろしいのではないでしょうか?」







「私はもうすぐこの世を去る身…さっき言ったように今更ここを抜け出すなんて不可能に近いのです。だから伝えて欲しい。私のせいであの子達が道を踏み外すのを私は見たくない」










そう言って辛そうに顔を歪めた




男自身も分かって居るこれは単なる自分のわがままなのだと

しかも目の前のよく分からない格好をした人物にこんなことを頼むのもお門違いだと言うことも







たまはこの男を見ていて思ったことがあった

どこかでこの男と同じような雰囲気をまとった人物に出会っていると




そして何よりこの男の願いは自分自身で行うべきだと







遠くの方から複数の足音が聞こえる







「さあ、早くこの場所から離れてください」







しかしたまは動こうとしなかった







「………もし、私があなたを救いたいと言ったらあなたはどうしますか?」







「何を言っているのですか!?そんなことはいいから早くお逃げなさい」







「私はあなたを助けたい、そう思いました」







「そんなこと…」







「出来ます」







「…………………………」







「私は未来から実験のためここにやって来ました。あなたを未来へ一緒に連れて行きたい」







たまは自分が何故こんなことを口にしているのか自身でも分かって居なかった

ただ一ついえることはこの人物をここで見捨ててはいけないということ

それも何故なのかは分からない…が、何故かこの男の物言いに暖かみを感じ自分の命の危機を悟った様子だったのにも関わらず助けて欲しい

などということを口には出していなかったのを見てたまは単純に興味がわいたのだった







「…未来に?」







「はい。いいですか?」







聞いてみるとしばらく考え込んだ様子だったがゆっくりと首を縦に振った







「それでは行きましょう」







そうたまが言うとたまとその男を中心に光が広がりそのまま二人をのみこんだ
















別件でこの場を離れていた使者達が戻ってきた頃には二人の姿は影も形もなくなっていた




がっちりと結んだロープとわずかながらにかけた術を突破して居なくなってしまった人物が居たところを驚いた様に見つめる使者達







そしてその数刻後使者達は上司にこの出来事を報告した







捕縛したはずの《吉田松陽》が消えてしまったと……


















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