泥棒さんの短い夢

□修業
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草木が鬱蒼とした山道を軽装のエリスと五エ門が歩いていた。


「エリス殿は来なくてよかったのに…」

五エ門が何やら独り言を言う。


「私も修業したかったから…いけませんでした?」



「いや…まぁ。
…これもまた修業か」



しょうがない…と諦めた目で五エ門はエリスを見た。


目が合い、笑い合う。

エリスと一緒にいる時間は穏やかだ。



しかし

気を抜くとトラブルに巻き込まれる。



「きゃ!」
エリスの小さな悲鳴。

やはり


五エ門はエリスの手を握った。

エリスは山道の木の根に躓きバランスを崩していた。

とっさに五エ門が手を引いてくれたおかげで転ばずにすんだ。



「ありがとう」

ふと


握ってる手が恥ずかしくなったエリスは、赤くなって手を振り払う。


勢いよく振りすぎて、ただでさえバランスを崩していた身体は山の斜面に投げ出された。


ごろごろ


エリスは勢いよく転ぶ。

「あぁっ!エリス殿!!」
五エ門はエリスを追いかけた。



必死で追いかけ、ぐいっと身体を引き寄せた。




なんとか



竹林に落下することからは免れた。



もし 落ちていたら…鋭利な竹に刺さって惨事になっただろう。


五エ門はエリスを抱いたままため息をついた。



「五エ門さん」

腕の中のエリスが弱く呼ぶ。


「エリス殿、無事か?」


「大丈夫です…
でも、また五エ門さんに迷惑かけちゃった」


エリスは五エ門の腕が怪我していることに気づき謝る。



「今 私を助けようとしてできた傷でしょ?
…ごめんなさい」

俯くエリスの頬をそっと撫でると、五エ門は微笑んだ。



「エリス殿といると、よい修業になる。
むしろエリス殿自身が修業なのかもしれぬ」




「それって…やはり迷惑じゃ?」



「いや
天が拙者に与えた試練なのだ」



「試練?」




「そう、愛の試練!」











「言ってて照れませんか?」



「照れる」

エリスはプッと笑った。


「つまり…そなたを愛しているのだ、エリス」

「私もですよ」




END
 

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