気まぐれな天使
□どうしようもない日常に天使がおりてきた
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伊丹は疲れていた。
ここ数日、ろくに帰れてなかった。
やっと…やっと、家でゆっくり休める。
重い身体を早く横たえたい。
なんとかマンションの部屋にたどりついた−−−−その時。
ガチャ
急にすぐ傍のドアが開き、伊丹は頭を押さえた。
『あ!ごめんなさい』
不用意にドアを開けた張本人が伊丹に気づき謝った。
「ゴメンで済んだら警察は要らねぇんだよ…」
思わず怒鳴りつけた伊丹は、ハタと固まった。
出てきたのは、美しい女性だった。
しかも白い羽根がヒラヒラと彼女の周りを舞い、ふんわりとした髪にくっついていた。
−−−−−天使!?
とうとうお迎えが来たのか!?
固まったままの伊丹を心配そうに女性は見つめた。
『あ!もしかして!…お隣りの伊丹さんですか?』
−−−となり?
『私、今日引っ越してきた白井美和です』
−−引っ越してきた??
待ってくださいと言うと、部屋の奥から小さな箱を持ってきた。
『これ、お近づきのシルシに』
柔らかな笑顔が眩しい。
天使のように笑うが、ただの隣人だった。
「ああ、どーも」
『リラックスできる紅茶なんです』
クソッ−−−紅茶と聞くと、特命係の警部殿を思い出す。
『気に入りませんでしたか?』
「ああ、いえいえ、もらいます…じゃ」
美人だが、ふんわりと漂う甘い香と優しい空気…何かが浄化されてしまいそうで、疲れ果てた今は精神的にヤラレそうで………あまり関わりたくない。
早々に退散すべき…だな。
伊丹は早足で去ろうとした。
しかし、神様はこの出会いをなかったことにはしたくなかったようだ。
伊丹は美和が不用意に置いていた段ボールに足を取られ、しりもちをつくように転んだ。
「…痛っ!!」
しかも、転んだ拍子に手放した紅茶の箱が宙を舞い、伊丹の頭に直撃した。
疲れと眠気も重なり、伊丹はそのまま倒れてしまった。