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□不器用な恋愛事情
act 1
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【不器用な恋愛事情】
《act 1》
卒業
ウィンターカップが終わると、三年生は引退となり、それと同時に俺の中ではその言葉が…強く引っ掛かってしまっている。
「あ…」
練習中にも関わらず、ベンチを見ては…あの人がいない現実を突きつけられる。
何時もなら
『サボってんじゃねぇぞ黄瀬っっ!!』
そう怒鳴って、見事な跳び蹴りをかます笠松幸生が…今はいない。
当たり前だ。
彼女は三年生で…もう此処に来る事はなくて…
そう解っていても、心がそれを受け付けない。
「笠松センパイ…」
誰よりも厳しくて
誰よりも優しくて
大好きな存在
「黄瀬、もう上がっていいぞ」
「でも…」
「オーバーワークは禁物って、笠松先輩から厳しく言われてるだろう?」
そう優しい口調で、厳しい事を言うのは、引退した主将森山センパイの跡を引き継いだ中村センパイだ。
因みに…副主将だった小堀センパイの跡を引き継いだのは、早川センパイ。
俺…未だにあの人が何言ってんのか…分からないッス…。
「はあく行けよ黄瀬」
「『早く行けよ黄瀬』だそうだ」
中村センパイの通訳がなかったら、海常バスケ部は…意志疎通が出来なくてIHどころじゃねぇだろう。
結局俺は、部活を早々に切り上げ、部室で着替えると外に出た。
卒業
「おめでとうございます…なんて言えないッスよ俺」
あの人の姿を見られない。
笑顔も
キレた顔も
泣き顔も
俺にはもう見る事が出来ないんだ。
卒業なんかしないでください
そう言えたら良いのに、俺はその言葉を最後まで言えないんだ。
だって、笠松センパイを確実に困らせてしまいから……
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