小説(WC後)

□一斉の声 8
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【一斉の声 8】


合同合宿が終わり、再来週からはテストが始まってしまう為に、誰もが練習に余念がない。


それは此処…洛山でも同じだ。


「あのぉ…すんまへん」

練習中に、バスケ専用の体育館を訪れる者は少ない。
しかも、訪れた者が…日本人形のような…大和撫子なのだから、周囲は驚きを隠せない。


白い肌
黒くつぶらな瞳
ウェーブした長い黒髪
そして…新緑色の着物


「ほら、アンタ達は練習を休まない!!」

誰もが彼女に見惚れるなか、そう言って練習に戻したのは、洛山バスケ部副主将の実渕玲央。


「何のご用かしら?」
「征十郎さんは居てはる?」
「征ちゃんなら、今東京に」
「征…ちゃん?」

実渕のそれが気にくわなかったのか、それを聞いた瞬間…実渕は愛想笑いをやめた。


「なんで東京に?」
「アナタに関係あるのかしら?」

基本…実渕は女性に優しい。
それは、女性になりたかった者として、そうされたいという願いからだ。

だが、彼女に対しては…実渕はそれを捨てた。


「そないな事…あんさんには関係あらへん」
「そうはいかないわ。
私は征ちゃんの右腕として…」

「男のくせにそないな口調して…。
征十郎さんに触らんといてや」


キッパリと言い放つと、彼女は体育館から出てった。


「レオ姉ぇぇ」
「実渕」


男のくせにと…そう言われ続けた中学生時代。

好きで男に生まれたワケじゃないと、そう怒鳴った事もあった。


「少し…顔を洗ってくるわね」


久々に感じる絶望
それを抱えながら、実渕は体育館の外に出ると水道に向かった。


葉山も根武谷も、心配してくれていたのが解ったが、今の実渕はそれを素直に受け取る気分ではない。


「久々ねぇ。
あそこまで嫌悪感を出されるのも…」


テレビで、オネエと呼ばれる人達が取り上げられるようになってから、実渕を見る周囲の目が

侮蔑から好奇心

へと移行した。

だが、いつだって嫌悪感というものは感じていた。


『ハッキリ言うと、俺はテメェみてぇなヤツは嫌いだ。
だが、シューターとしてのテメェは…尊敬してる』


だが、彼は違った。

誠凛の日向順平。

嫌悪感はあっても、それを隠す事もなく、真っ向からぶつかってきた。


「久々だと…流石に辛いわねぇ」

実渕はそう小さく呟くと、頭から水を思い切り被った。

全てを忘れるかのように…。




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