小説(WC後)

□一斉の声 8
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笠松がバイトしてるコンビニと、黛がバイトしてる本屋は…そんなに離れていない為に、終わりの時間が重なった時は、こうして一緒に帰るのが普通になった。

「赤司…どうかしたのか?」
「実渕が何か悩んでるみたいだから、相談に乗ってくれだと…さ。
講義もないし、明日京都に行ってくる」

実渕の思慮深い性格は、黛にとって共に居ても気にならないぐらいに…気に入っている。

「俺は講義があるから、何かあったらメールくれ」
「あぁ」

笠松は実渕を良くは知らない。
無冠の五将であり、3Pシューターとしては、何度か試合を見た事があって、尊敬もするが…個人的にとなると、オネエであるぐらいしか知らないのが現状だ。

「本当に実渕は…生まれてくる性別を間違えたとしか思えない。
女子力半端ねぇ」

料理に化粧…女としての立ち振る舞いまでも、実渕は網羅している。

そう言って笑う黛に、笠松もつられて笑った。

そんな時だ。
一台の黒塗りの車が、二人の横に停まり…ウィンドウが開いた。


「黛はんと笠松はんやろ?」
「自分から名乗るのが礼儀じゃねぇのか?」

二人は知らないが、窓から顔を出したのは…昨日洛山に来た彼女で…。


「京極薫子て言います。
どうぞよろしゅう」


丁寧な言い方ではあるが、言葉の節々に感じるのは…敵意という棘で…。


「黛はんと少し話がしたいんやけどねぇ」

それは、笠松が邪魔だと言ってるのも同じだ。

「悪いが、俺はコイツと今から晩飯を食う」
「俺?
 晩飯?
いややぁ。
こないな人が…征十郎はんとお付き合いしてるなんてぇ。
野蛮なだけやん」

仰々しく…ハンカチで口元を抑える京極に、笠松の眉間に深い皺が入ったが、黛はそんなのどうでもいいという態度を貫いている。

「赤司なら京都だ」
「私が用あるんは黛はんや」

黛が乗り込むのを待つかのように、勝手に車のドアが開いたが、黛は素知らぬ顔で歩き出す。

「アンタが何処のお姫様かは知らないが、なんでもかんでも思い通りに進むなんて思ってんじゃない」

まさか、黛がそう出るとは思ってもなかった京極は、茫然とした後…そう黛本人から言われると…怒りで肩を震わせたが、追い掛けようとはしない。

「お嬢様…」
「なんやの…この私がわざわざ出向いてやった言うんに…」

長年京極薫子の個人運転手を勤め上げている青年に、京極はそう言うと


「黛千尋と笠松幸生の交友関係…全部洗ってや。
私を怒らせたこと…後悔したらええやん」


そう命令を下した。

「…はい…」

京極のその命令に、運転手は小さくそう返すと…彼女に聞こえないように溜め息を吐いて、ゆっくりとアクセルを踏んだ。




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