小説(WC後)
□一斉の声 2
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『マネージャーなら、氷室で足りている。
紫原目当ての奴は来るな』
監督である荒巻雅子が…部活紹介の際に…堂々と公言した事もあり、紫原目当てのマネージャー希望者は居らず、その結果マネージャーは0人となった。
その為、陽泉の新入部員は
推薦組が3人
一般からは10人
しかし…
「氷室先輩、そんな事は俺が行います」
「先輩」
「氷室先輩」
その13人の半数が、紫原ではなく…マネージャーの氷室目当て。
黒子が危惧していた事通りとなってしまった。
氷室を取り囲むような…新入部員を見る紫原の目は…あからさまに怒っていて…。
その事に気付いたのは、中国からの留学生であり、新キャプテンとなった劉だ。
「なに…あれ」
「外面だけは良いアルからなぁ…氷室」
唇を尖らせる紫原に、劉は淡々とした態度を崩さない。
確かに見てくれだけならば、氷室は美人だ。
それは間違いない。
だが、中身がエレガンスなヤンキーな彼女を知ってる劉にとって、氷室は
監督と同類
という認識が強い。
つまりは、怒らせたら拙い人間という事だ。
「ムカつくしぃ」
紫原のその言葉に、劉が慌てて止めようとしたが…遅かった。
ズンズン
彼らと氷室の間に、大きな身を割って入れると…紫原は突然氷室を抱きしめた。
「お菓子かアツシ?」
ざわつく新入部員に目もやらず、まるでさも当然のような氷室の態度に、彼らのざわつきは大きくなるばかりだ。
「もう練習終わったし、帰るしぃ…室ちん」
「まだ片付けが」
「そんなのやらせとけば良いじゃん」
其処で紫原は、彼らを見据えた。
圧倒的な威圧感
それに紫原に慣れてない彼らが…飲み込まれないワケもない。
「やっておきます」
「あっそ」
誰かが言ったその言葉に、紫原はそう冷たく返すと…氷室は申し訳ないという顔をしてきて…。
「言っとくけど、室ちんは俺んだから」
まるで捕食者の目を新入部員へと向ける紫原に、言われた氷室は顔を真っ赤にしてしまい…。
「キャプテン…あれ…」
「慣れるアルよ」
それを見ていた新入部員(ただし、純粋なバスケ馬鹿)の呟きに、劉はそう溜め息混じりで答えた。
「あいつら…マジくたばれ」
そして、物騒な事を額に青筋立てて呟く監督の手にあるのは…竹刀ではなく…木刀。
「監督、竹刀はどうしたアル?」
「紫原をブッ叩いたら折れた。
代わりに自前の木刀だ」
自前?
木刀が?
それは荒巻雅子に淡い恋心を抱いていた…新入部員の1人(仮名A)の心を見事に粉砕させた。
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