小説(WC後)

□一斉の声 0
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《洛山》


自分の卒業式だってのに、元より影が薄い俺は式に出る事もなく、屋上で…昨日出たばかりのラノベ新刊を読んでいる。


《私の弟がこんなにイケメンのワケがない》


屋上で…風を感じながらラノベを読む時間は…まさに至福。


3年の学校生活に、俺は未練も思い入れもない。


「やっぱり居た」
「…在校生は全員卒業式に参加じゃないのか?」

「どうしても言わなきゃならない事があったから…」


コイツの口から、まさかの二重人格発言があった時には、冗談として片付けていた俺だったが、こうして赤司を目の前にすると…納得せざるをえない。


「いろいろ…済まなかった」
「あぁそうだな。

オヤコロ
ズガタカ

等の厨二病発言に加え

マネージャー如きがボクに指図するな

等々の非常に腹立たしい限りの発言」

ちなみにそれを言われた時は、赤司の顔面殴ろうとしたぐらいだ。
それは実渕に必死で止められたが…。


「俺を男子バスケ部のマネージャーにしたのは…他でもないお前だ。
なのにそう言われた時は、殺意を抱いた」


言えば言うほどに、赤司がうなだれていき、段々と楽しくなってきた俺は、更に赤司を追い詰めるべき毒を吐く。


「そ…それは…」
「そんなお前がマネージャー如きに何の用だ?」

そう淡々と言えば、赤司は真っ向から俺を見てきて


「好きだ」


と言った。


「安心しろ。
俺はお前が嫌いだからな」
「解ってる。
だけど、俺は千尋が好きで…」

ラノベ的展開…とでも言うべきか?。
しかし、俺はラノベが好きであって、ヒロインになりたいとか思ってるワケじゃねぇ。


「千尋がオレを変えてくれた。
いや、多分ずっと前から…初めて此処で君と会った時から、千尋は特別だったんだ」

馬鹿じゃねぇの?

恥ずかしげもなく、そんな事を笑顔で言える赤司も…そして…それをまんざらじゃねぇって思ってる俺も…。


「千尋がオレを嫌いなのは…」
「嫌いじゃねぇよ。
厨二病のお前だったら、その顔面に拳叩き入れてぇぐらいに嫌いだが、今のお前は…嫌いじゃない」

それが、赤司が言う好きかどうかは…正直解らない。
だが…


「友達からなら…始めてやるよ」


それが今の俺の精一杯の答えだ。


「よろしく…千尋」


ふわりと笑うコイツが、何故こうも可愛いのかが…理解出来ない。


「…前言撤回
お前の事…好きっぽいわ俺…」


この笑顔にヤられた。

黛家は代々惚れっぽいって言われていたが、俺もその血を強く引いたって事か。


「千尋?」
「笑ってろ。
お前…笑ってる方が可愛いから」
「それ…男に言う言葉じゃないよ?」

「可愛いもんは可愛いんだよ」


そう言った瞬間…


「ちょっと押さないでよ小太郎!!」
「俺じゃないっ!!。
永吉だよっ!!」
「見えねえんだから仕方ねぇだろうがっ!!」


扉が開いて…実渕が葉山と根武谷の下敷きになって姿を現した。


「とりあえず…そのビデオは没収かな」
「そうしてくれ」


そう言いながらも、赤司の顔は笑っていて…俺も小さく笑って返した。





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