小説(WC後)

□一斉の声 0
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【in陽泉】


「泣くなって氷室」
「福井先輩…」

卒業式の最中から、俺の目からは涙が止まらなくて…式が終わってから…ロッカーに行き1人で泣こうとしたら、岡村さんと福井さんが先に来てて…。

男女の差
持って生まれた才能の違い

アメリカ時代、俺は弟みたいに思っていたタイガに…勝ちを譲られた。


ハッキリ言って、日本に来たばかりの俺は、卑屈で可愛げもなかった。


陽泉に来た理由だって、バスケが強いからってだけ。

だけど、そんな俺に…


「ほれもう泣くな。
まったく」


そう言って、ハンカチを渡す岡村さんは


『ワシは…今の氷室でエエと思うぞ』


そう笑って言ってくれた。

言われた瞬間…殴りつけようかとも思ったけど


『氷室は繊細じゃなぁ。
じゃが、その繊細があってこそ氷室じゃろ?。

生きてれば嫌な事も沢山ある。

男女の差も…それは仕方ない事じゃ。
だが、それでもバスケが好き。
それが一番大事な事じゃろが』


続けられたその言葉に、俺は…このチームが好きになった。


アゴリラとか、モミアゴリラとか呼ばれてるけど、それって信頼されてるから…いじられる岡村さん。


福井さんだって、劉にデタラメな事ばかり教えるけど、試合にもなると…PGとして周りをしっかりと見ている。

その二人が卒業するのに…笑って送り出すなんて俺には出来ない。


「まだ氷室は泣いてるアルか?」
「ちょっとゴリちん…室ちん泣かさないでよねぇ。
ひねり潰すよ?」

何も俺が言えない間に、ロッカーへと入って来たのは劉とアツシ。


「ワシ何もしてないぞ!!。
それに最後までワシ…ゴリラ扱い!?」
「ゴリラは何処まで行ってもゴリラアルよ」

もうこのやり取りを見られないと思うと、やっぱり悲しくて…。


「室ちん泣くと、平気で人を平手打ちするしぃ」
「あれはアツシが悪いだろっ!!」
「…だからって…普通平手打ちとかする?」
「いや…それは…」

アツシの言葉で、俺の涙は一気に止まり…そんな時扉が開いたかと思ったら、卒業式の最中でも、何故かジャージ姿だった監督が…入ってきた。


「お前らお別れ会するぞっ!!」


そう言って…。


「お別れ会って」
「日本の卒業式には、必ずこうしてお別れ会をするんだ」
「マジアルか!?。
やっぱり大和撫子は違うアル!!」

俺の言葉なんか…どうやら聞いてないらしく、福井さんが劉にまたもやデタラメを教えた。


「そういえば、岡村さんって…卒業後はどうするんですか?」
「動物園に動物として檻の中」
「やっぱりアルか」

「ちょっと待って!!。
ワシ普通に秋田大学じゃからなっ!!。
其処で可愛い恋人を」

「それ鏡見て言えよ」
「冗談でも笑えないアルな」

福井さんと劉…そして岡村さんの会話に、俺は漸く笑えた。


「福井さんは?」
「俺は秋田。
元々地元が秋田だし、長男だから…跡継がねぇと」

それは初耳で…。
こういう強豪校って、全国から集められるから、地元がっていうのは珍しい…らしい。

しかも、それでスタメンだしな。


「福ちん…何か作るのぉ?」
「米だ!!。
うちの米は美味いぞ」
「お米かぁ。
お腹空いたら食べるから、寮に届けてねぇ。
そうしたら、室ちん毎日会えるし…」

まいう棒を食べながら、そう言ってくれるアツシの頭を…優しく撫でたら

「俺室ちん好きぃぃ」


そういきなり言われました。




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