小説 フェアリーテイル
□凩
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ここ数日で気温は一気に下がった。マグノリアの町にも冷たい風が吹く。
今日は特に風が強い。凩というやつだ。
「寒い・・・」
ジュビアは仕事帰り、ギルドに向かって歩いている。
寒さや暑さはあまり感じないジュビアだが、風の音を聴いていると何となく寒くなってしまう。
夜も遅いし早く報告して帰ろうと、足を早める。
「グレイ様は大丈夫かしら?また服を脱いでしまっていて風邪でもひいたら・・・」
独り言をぶつぶつ言って歩く。すると前から何が飛んできた。
「きゃっ!!」
それはジュビアの顔をバサッと覆った。
「これは・・・グレイ様の服!?」
飛んできたのはグレイが着ている白いコートだった。
「やっぱり服を脱いで・・・」
ジュビアは走り出した。
グレイが風邪でもひいたらと思うと、居ても立ってもいられない。
ギルドに着いたジュビアはグレイの姿を探す。
夜も遅いのでギルドの中にはほとんど人はいない。
「居た」
愛しのグレイは上半身裸でカウンターに突っ伏して寝ている。
「お帰りなさい、ジュビア」
ミラジェーンがジュビアに微笑む。
「ただいま帰りました、ミラさん。グレイ様、寝てしまってますね」
「さっきまでナツたちと騒いでたからね。でもそろそろ起きてもらわないとギルドが閉めれないわ・・・あら、それグレイのコート?」
ミラジェーンがジュビアの持っているグレイのコートに気付いた。
「はい、飛んできたんです」
「あらあら。グレイったらまた脱ぎ捨てたのね」
「はい。グレイ様に返そうと思ってんですが、寝ていらっしゃるので・・・」
「起こそうか?」
ミラジェーンが聞くと、ジュビアは首を横に振った。
「いいんです」
ジュビアはそっとグレイにコートを被せた。
「では、ジュビアはこれで。おやすみなさい、ミラさん」
「おやすみなさい、ジュビア」
ジュビアは寝ているグレイにもそっとおやすみなさいと言ってギルドを出た。
グレイが起きたのはジュビアが帰ってからわずか二、三分後。
「ふぁ・・・あれ?コート?」
「あら、目が覚めた?さっきね・・・」
「ジュビアか」
ミラジェーンが説明しようとするとグレイが呟いた。
「なんで分かったの?」
「わざわざ俺の上に掛けてくれる奴なんてアイツしかいねぇよ」
確かに他の人なら横に置いとくとか、預けるとかするかもしれないと、ミラジェーンは思った。
「んで、アイツは?」
グレイはギルドを見渡す。ジュビアを探しているのだろう。
「ジュビアならついさっき帰ったわよ」
「なに!?こんな時間に一人でか?」
「ええ」
グレイは慌ててコートを着る。
「帰るの?」
「ああ。別にジュビア追いかけるとかじゃねぇから」
そんな顔で否定されても・・・と、ミラジェーンは笑いそうになる。
「そんなに時間はたってないからすぐに追い付けるわ」
「だ、だから違うって!!」
と言ってる割にはキョロキョロしながらギルドを出ていったグレイであった。