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□HERO@サイン会(会場は公園)
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え?いつから私がヒーローになったかって?きっかけ?
ううん、覚えてないなあ。どうだったかなあ。

ヒーロースーツに身を纏った子供たちの憧れのヒーローは、慣れた様子で手際よくサインをこなしていく。
彼の周囲には目を輝かせた子供たちの群れ。
そして離れたところで独りブランコに腰かける、場違いな軍服の青年。

「えー、じゃあ、別の質問です!」

子供たちの中でもひときわ熱心なファンであるスニッフルズが、ほかの子供に負けまいと手を挙げながら叫んだ。

「どうやったらヒーローになれるんですか?」

あー、それオレも知りたい!どうしたらかっこよく空を飛べるの?
スニッフルズの質問をきっかけに、ますます子供たちは盛り上がる。
しかし、肝心のヒーローはサインする手をぴたりと止めて動かなくなってしまった。
まるでメデューサの瞳を覗き込んでしまったかのように。

「えーと、スニッフルズ君、今なんていったのかな?」

「ぼく、ヒーローさんみたいになりたいんです!」

「そうか…。君たち、よく聞くんだ」

それまでにこやかな表情を浮かべていた英雄は、急にこの上なく真剣な顔つきになった。

「ヒーローになる方法など、この世に存在しないんだよ。なぜならば、この私が一人いるだけで充分なのだからね」

「えー、じゃあなんでヒーローはヒーローになれたの?」

群衆は不服そうな表情を隠さない。

「いいかい、難しいかもしれないけど、よく聞くんだ」

その場が静まり返り、子供たちの眼差しも真剣なそれに変わる。
どうやら話をきちんと聞く気になったようだ。
しかし、部外者の青年は、”ああ、また始まった”とため息をつくのだった。




「スプレンディドさん、あなたはヒーローなのに、罪悪感とか少しも抱かないんですか?」

すっかり日も暮れて、子供たちは家路に着き、公園には二人以外に誰もいなくなった。

「何の話だいフリッピー君」

「何の関係もない僕を強制的にサイン会に同行させた上に長時間待たせて」

「バンドマンが好きな子を自分のライブに誘うだろ?あんな感じの心理だよ」

「言ってることの意味が分かりません。第一…純真な子供たちを騙して、良心の呵責というものに」

「苛まれないね」

「苛まれろよ」

「だって騙してなんかないもん」

「そのしらばっくれた顔が憎たらしい」

いらいらし始めたのか、フリッピーはブランコをこぎ始めたが、その行為は軍服姿に似合わず滑稽なものだった。

「あ、二人乗りしよう」

「いやです。来るな。あなたなんか地獄に落ちちゃえ嘘つき」

「あ、蹴ったな!いいかいフリッピーくん、私には裏も表もないんだよ。すべて裏だし、すべて表なんだ」

「よくわからないことばっかり言って…」




君たち…よく聞くんだ。ひとはヒーローになるのではないよ。ヒーローに生まれるんだ。
つまり、結局のところ私はヒーローに生まれたからヒーローなのであって、ヒーローに生まれなかった君たちはヒーローになれないんだ。
いいね。


2013/10/06

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