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□空虚感
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「ハンディ君、まだ終わんないのかい?」
この町のヒーローは、今は小さな子供のように太い木の枝に腰を掛け、足をぶらつかせていた。
しかし腰かけているのは、高い高い高い高い高い、つまり、小さな子供には(大きなお友達にも)登れないような高い木であった。
「ディドさーん、急かすのはやめてくださいよ。家、壊したのはあんたでしょうが」
町で一番腕が良いとされる大工、ハンディは、はるか高い場所にいるスプレンディドに聞こえるように叫ぶ。
もっとも今のところ大工は彼以外にいないのだったが。
「しっかし器用だねえ」
スプレンディドはハンディがせっせと壊れた屋根の修理を行うのを観察している。
しかし彼とて、なぜ腕がないのに大工なんて続けてるんだい?と聞くほどデリカシーに欠けるわけではなかった。
「ん?」
上空60mの静けさの中にいたスプレンディドは首をかしげた。
ミシミシという嫌な音。
「うわ!」
とっさに彼はふわりと舞い上がる。
彼が先ほどまで座っていた大ぶりの枝が見事に折れたのだ。
宙に浮かぶスプレンディドを残して、枝は重力に従い落下する。
その目指す先は、作業に打ち込むハンディだ。
「ハンディ君!!」
ヒーローはマントを翻し、ハンディを助けるために急降下…しかし。
間に合わなかった。
枝はハンディの体を貫通して、さらに屋根に深く突き刺さっていた。
「ああ、何ということだ」
自身も屋根の上に降り立ち、さっきまで大工としての努めを果たそうとしていたハンディの生死を確認したスプレンディドは、血染めの屋根に膝をついた。
「私は君の仕事の出来栄えがいかに素晴らしいか、まだ一回も見たことがなかったね」
この町では本当に人が良く死ぬ。
偶然とは思えない確率。
尊厳もなにもあったものではない。
凄惨な結末、最期。
繰り返される断末魔。
日常茶飯事。
死体の処理も慣れたものだった。
今回は自身の過ちや友人の死に気がつかないふりはできなかった。
しかし、告げるのは別れの言葉ではない。
「また、明日ね。ハンディ」