「えーっと…じゃあ副長、書類頂いていきますね」 「ああ頼む」 そうして受け取った書類の束を胸に山崎が立ち去ろうとした時、 「あ!ザキィ!俺と海いかね?」 ずりずりと座卓から這い出して来た沖田がそう声を掛けた。 「あ、それ良いですねぇ!ビーチでミントンなんか楽しそうで♪」 沖田の言葉でふと浮かんだ妄想に山崎は楽しそうに笑ったが、突き刺さるような土方の視線に気付いてその笑顔は一瞬で引き攣り笑いに変わった。 「あ…や、やっぱり俺無理です!休み取れそーにないんで」 「えーっ!何だよソレ!!」 「そ、それじゃ副長、隊長、俺はこれで!」 「おー、ご苦労さん」 逃げるようにパタパタと走り去る山崎を見送ってから、土方は徐ろに煙草に火を点た。 「いつまでそこに居るつもりだ?今日は夜勤だろ。部屋に戻って今の内に寝とけ」 半身を座卓に残したまま拗ねたように畳に突っ伏している沖田の頭を、土方はまるで子供を宥めるようにポンポンと叩いた。 『何だかんだ言っても、コイツもまだガキだからな』 小さい頃から年上ばかりの中で育ち、子供らしい遊びを殆ど知らない沖田を不憫に思わない訳ではない。 『仕事がなけりゃ海くらい連れて行ってやるんだが…』 しかし毎年、夏の時期は盆を過ぎる頃迄は中々に忙しい。個々で催される祭や花火大会、浮かれて開放的になり過ぎる民衆。そんな江戸の広範囲に渡る治安維持を真撰組としては疎かにする事は出来ない。 まして沖田一人特別扱いする訳にもいかなかった。ただでさえ普段から近藤あたりが甘やかし過ぎる程なのだから。 『近藤さんにも釘を刺しとかなきゃな…』 土方が紫煙を吐き出しながらそんな風に考えていると、不意に思い立ったように沖田が顔を上げた。 2007/08/07
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