ある日突然眼の前に現れた男に、視界の全てを遮られた。 その強さや、寛容さ。一見ちゃらんぽらんに見せてその実、純粋で真っ直ぐな厳しい眼差しに、逢う度心が奪われて惹きつけられる。 とにかく苦くて。 でも甘いその想いはただ募るばっかりで。 近頃じゃ抑える事さえ困難で。 その姿を見れば心が躍る。 見なけりゃ見ないで逢いたい気持ちが膨れ上がる。 仕事をしていても、何をしていても、気が付いたらあの人の事ばかり考えてる自分に気付く。 「もう限界かもしれねェ…」 無意識に呟いた。 「何だ便所か?我慢してねーで、さっさと行って来いよ」 俺が零した一言に、隣にいた土方さんがそう返す。 どうやら思い詰めてる俺の表情を見てそう判断したらしい。 「……何だよ、その目は。」 「いえ。んじゃお言葉に甘えて、ちょっくら行って来まさァ」 反論するのも面倒臭ェ。 仕事をサボるのにも調度いいやと思いながら俺は持ち場を離れた。 そのまま一人で町をふらふら徘徊して、綺麗に晴れた青空を見上げて出るのは溜め息。 いっその事伝えてみようか。 報われる可能性は限りなく薄い。 相手は男で自分も男。 どう考えても迷惑この上ない話。 何度も決意しては尻込みするその繰り返し。 弱点無しと言われるこの俺に、まさかこんな弱点があるなんてね。 余りにも情けなさすぎて、逆に笑える。 そんな俺の葛藤を笑うように決断の時は本当に突然やって来た。 俺の真っ直ぐ目の前。 広い通りを一人飄々と行く背中。 サワリと吹いた風に柔らかく銀髪が靡く。 偶然に見付けたその後ろ姿に、俺の胸は一気に高鳴った。 ほんの一時、目を奪われたようにその場に立ち尽くす。けれど次の瞬間には考えるより先に俺はその背中に向かって走り出していた。 2007/05/21
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