→STORY

□CONTRST
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CONTRST 




『近くで見ると、案外似てないもんなんだな』



「そんなもんですよ」



『昔 あんた一度だけハウスに来たことあっただろう。

そんときゃ まるで生き別れた双児かと思ったんだぜ?』




「よくわかりましたね」


私だと。



『他のヤツらにわからなくても』



俺にはすぐあんただってわかったんだ




『随分遠目だったけどな』





そう呟くと男は少し苦しそうにベッドの上で身じろぎした。

頭から足の先まで分厚い包帯で巻かれた痩躯。
窪んで光を失った目元と、呼吸のために口元だけが僅かに覗いているだけだ。



「……不様ですね」


痛みますか、と。
勝手に動こうとする口元を指で押さえ、私は未だ滲み出る体液で薄く汚れた包帯を見下ろす。



『ひゃは!』


『…いや違うな。もっとうれしそうに…


きゃはははは!、だ』




幾本もの点滴を揺らして、男は可能な限りのけぞってみせる。

だがほとんど身動きのとれない躯は、掠れているけれど狂喜した声を裏切って痙攣したように蠢くだけだった。




『…不様だな…。』




苦しげに咳き込みながら笑いをおさめ、
「今気がついた」とでもいうかのように唖然と呟いてみせる。




まったく。


そんなことは誰よりも。



おまえ自身がわかりきっているだろう?




軽く爪を噛む私を、包帯の奥の空虚な眼が見上げる。



『だけど、あんときゃ遠目過ぎて……』



アナタノ ナマエ モ ワカラナカッタ


アナタ ガ アト ドレクライ……






「…遠目でも見えたなら 視力良かったんですね」



…こんな無惨に溶けきった躯になる前は。




『実際』



今日ノ今日マデ



『あんたがそんなに』



目ニスルマデハ


 
『真っ暗な眼をしてるなんて』




……コレッポッチモ



 
『気づきもしなかった』







……私の暗さ?


それがおまえに言えるのか。




四角く無機質な部屋に、男の身体状況を伝える規則的な電子音だけが響く。


以前よりも正常値に近いといえる数字が 微動を繰り返しながらも静かに浮かび上がっている。



唇に押し当てていた指をおろした私は、いつものように両手をダブつくポケットに突っ込んだ。



もう  大丈夫。




生きているのが不思議なくらいの状態だったのは、もはや過去のことだ。


あの不愉快きわまりない事件のように。



そのままゆっくり踵を返し、ベッドに磔られた男に背を向ける。



『もう、行くのか。』




「もう、行きます」





『じゃあ最後に ひとつだけ。』



やはり掠れ気味の声に、肩越しに振り返る。



悲しげ とも、楽しげ とも。

どちらともとれる不思議な眼が 静かに私を見上げていた。





『あんた…俺のこと、知ってた?』




ワタシガ アナタ ヲ ミツケタヨウニ。



アナタハ


 
ワタシ ニ



キヅイテイテクレマシタカ…?









「……憶えてませんよ、そんな昔のこと」




『…ハハッ!』


やっぱりあんたは……




『    。』





面倒臭げに眉をしかめる私に、男は何故か幸せそうに。


今度は本当に笑ってみせた。





…まったく。


まあ もう会うこともないし


『    』呼ばわりは見逃してやろう。



尚も苦しげに笑い続ける男に今度こそ本当に背を向けて、たったひとつきりの扉をくぐりながら__


小さく



本当に小さく呟いてみた。







「さよなら ビヨンド・バースデイ」






070516

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