→STORY

□嘘つき。
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珈琲なら 砂糖を4つ。



エチオピア産の なるべく濃くて苦い豆がいい。



ミルクを足したいときだけ 好きなだけ。




これが 私の ちょうどいい、です。








嘘つき。




紅茶が冷めて 本来の香りを失った。


見計らったように 白髪の紳士がそれを下げ


かわりに


馨しい湯気をたてるカップが 音もなくそこに置かれる。



『ありがとう』とも『すまない』とも



私はこの老人に言ったことがない。




目の前の画面に 目線を固定させたまま



ひとつ ふたつと砂糖を落とす。



細い銀のスプーンは 私の指によく馴染む。



おそらく


今は 真夜中過ぎ。



眠気を誘うミルクが見当たらないのが 時刻把握の合図だ。




送らせたこのファイルに目を通しはじめてから



およそ 8時間は経過したということか。




私には 一般的な休息は必要ない。




そう


考える


感じる


ひとつひとつ 辿っていけば



必ず


『その人物』がそこに『至る理由』も



彼らが『進むべき段階』の思考も




すべて ピタリと合わさっていく。




あとは こうして『証明』を探し出すだけ。




推理は容易い。








立証できなければ 負け。





だから 私は完全に 勝つ まで




休息は必要としない。




それが 今




あと一歩。







「…L。ロサンゼルス市警に、また文書が届けられました」




薄暗い部屋の後方から 簡潔に必要事項だけを述べる老人の声。




「わかった、こっちに回してくれ」




私も必要なことだけ 応える。





直ぐさま 開かれる新しいファイル。




例の クロスワードの書かれた紙きれと、数枚の封書の中身



それから 藁人形の打ち付けられた ふたつの異なる部屋の写真



ああ





わかった






決まり、だ。




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