ネウロ。

□唯一無二。/早坂兄弟:弟×兄
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 雨が全ての音を消す夜。


闇に包まれる室内を、
足音も立てずに歩く影が一つ。

ただ静かに、静かに、闇に慣れた目で、前を見て。


そうして一つの部屋の前で足を止め、
音を立てないように戸を開ける。

そのままベッドに歩み寄り、
そこで眠る久宜を見つめ、

ユキは馬乗りになった。

「…兄貴が…悪いんだよ…」

そっと久宜の首に手をかけ、
ゆっくりと力を込める。

ゆっくり、ゆっくり、

久宜を世界から切り離していく。


あと少しで、俺だけのモノ…。


更に力を入れようとしたとき、

「…うっ…」

久宜の苦しむ声に、ユキは反射的に力を緩めた。

それで一気に空気が戻り、久宜は咳込む。

「あっ…」

ユキの全身が震え、涙がボロボロ零れてきた。


ただ、ただ兄を、自分だけのモノにしたかった。

願ったのは、それだけ。

ただ、それだけで…。


「…殺さないのか?」


そこに響く、久宜の声。

ユキは涙で濡れた顔で、久宜を見る。

「あっ…」

震えが、一気に大きくなる。

「それしか、お前の望みを叶える手段は、ないんだろ?」


「…だって…」

またユキの目から、涙が溢れてくる。

「兄貴が悪いんだよ…俺がいるのに…結婚なんて決めるから…」

まるで子供のように、泣きじゃくって。

「…俺だけで良いじゃん…俺…何でもするから…何でも言うコト聞くから…」

「誰から聞いた?」

「えっ?」

誰って…ユキは明確に思い出せない。
それでも聞いたのは、事実で。

「結婚なんてしないぞ、俺は」

「ホント?!」

「するワケないだろ。お前みたいな弟がいて」

「なんだ。良かった〜」

ユキは大きく息をついて、久宜に抱き着くように覆いかぶさった。

「もう殺すしかないって思ったけど。良かった」

至福に満ちた、その顔をうずめて。

「分かったから、さっさと自分の部屋に戻って寝ろ」

「もうムリ。気抜けた」

溜め息をつく久宜を他所に、ユキは全く退ける気配を見せずに笑った。


やっぱり、兄貴は俺のモノ。
俺だけのモノだ。


分かってくれてるなら、もうこんなコトしない。


殺そうなんてしないんだよ?兄貴。

     終

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