Short Story

□それはやっぱり君でした。
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もし“麦わらの一味”の何が恐ろしいかと聞かれたら、料理人であるおれは船長の底無し沼のような食欲だと真っ先に答える。

この船の船長は、とにかく有り得ないくらい食べる。それはもう化け物並みに。
そのため、おれは食事の度に大量に料理を作る羽目になるわけだ。

正直、飯を作るのがめんどくせぇ時もある。嫌になる時もある。
だが、笑顔で食べる仲間達の顔を見たら、そんな気持ちはいつもどこかに吹っ飛んじまう。
その度に、やっぱりおれは食べさせる事が好きなんだ、と自覚する。


鼻歌混じりに料理を作るために手を動かしていると、背中に視線を感じた。自然を装ってその方向に視線を向けると、そこには笑顔でおれを見つめる愛しい人の姿があった。

いつからか、ナミさんはおれの傍でおれが料理を作っている所を見るようになった。
何故かは分からないが、嬉しい事だ。ナミさんが傍にいてくれるだけで、おれの世界は色付くから。


おれが料理をしている間、彼女からはあまり話しかけて来ない。ナミさん曰く、おれの邪魔をしたくないらしい。
別に話しながらでも美味ぇ料理を作る自信はあるが、ナミさんのその心遣いが純粋に嬉しい。
だから、おれはその心遣いを無駄にしねぇためにも、ナミさんの事を一旦頭の中から排除して料理に集中する。


「ねぇ、サンジ君」


珍しく、料理中のおれの名前を君が呼んだ。その声は、どこか弾んでいる。
動かす手は止めずに、今度は満面の笑顔をナミさんの方へ向けた。聞かれるであろう質問を待つ。


「何作ってるの?」


予想通りの質問に、心の中で小さく笑う。


「何だと思う?」


考えていた言葉を言うと、ナミさんは僅かに眉根を寄せた。それは別に機嫌が悪くなったからではなく、考える時に彼女がする癖だという事をおれは知っている。


「教えてよ」
「簡単に教えちゃつまらねぇだろ?」


子供のように聞いてくるナミさんは可愛くて、何で彼女はこんなにも可愛いんだろうか、なんて事を思わず考えた。

 
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