Short Story

□月に溺れて
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みんなの視線から逃げるように彼の顔を覗き込む。彼は今の状況なんてお構いなしにぐっすりと寝ている。
毎日早起きの彼の寝顔を見る事が出来るのは貴重だ。こうしてみると、意外と睫毛が長い。見るほど綺麗な顔立ちをしている事に気付かされる。

一頻り彼の寝顔を見つめた後、突き刺さる視線を思い出した。


「大体、悪いのはウソップでしょ!!」


こうなったのは、私のせいじゃない。
こんな状況で言っても見苦しい責任転嫁にしか聞こえないだろうけど、本当に悪いのはウソップなのだ。


元はと言えば、あまりお酒に強くない(と言っても、人並みには呑める)彼にウソップが無理矢理お酒を呑ませた事が発端だ。

彼は最初は嫌がっていたけど、あまりにもウソップがしつこいから少しずつお酒を呑み始めた。
それからもウソップは執拗に彼にお酒を勧め、その結果、彼はすぐに酔っ払った。
そして、何を思ったのか、彼は私の膝の上に頭を乗せて寝てしまった。

つまり、私は被害者なわけだ。
なのに、何で私がみんなからそんな顔をされなきゃならないのか。理不尽だ。


「おれ達が一番気にしてんのはそこじゃねぇぜ、小娘よぉ」


わざとらしく頭に来るような呼び方をしたのは、アロハシャツを着たリーゼント頭の変態。


「……どういう意味よ」
「言っても怒らねぇって言うなら、教えてやってもいいぜ?」


伊達に長く生きているだけじゃない。この私を子ども扱いするなんて。
少しムカついて声を荒げそうになったけど、彼の規則正しい寝息を聞き、声を呑み込んだ。

 
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