Short Story
□ずるい人
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キッチンに立っているのは、金髪の男。
小刻みに揺れる身体と規則正しく聞こえるトントンという音は、彼が料理をしている事を表している。
彼の口角は楽しそうに上がっていて、彼がどれ程料理が好きなのかを示している。
いつもバカみたいな事を口走るその口は驚く程静か。
まるで、今この場にいる彼はいつもの彼とは別人みたいだ。
こういう時、嫌になる程思う。
彼って、ずるい人。
彼について、少し考えてみよう。
光に当たらなくても輝く金の髪。
宝石のように綺麗な蒼の瞳。
男のものとは思えない白の肌。
細いのにしっかりとした身体。
自他共に認める程の料理の腕。
至るところへ向けられる気遣い。
誰彼かまわず向けられる優しさ。
ざっと考えてみただけなのに、いくつもの良い点が浮かぶ。
こうして考えてみると、なかなか彼は素晴らしい人だ。
女好きという最大の欠点が目立ちすぎて気付きにくいけど、彼は実はかなりイイ男なのだ。
「……ずるい」
思った事をそのまま言ってみると、彼は驚いたように振り向いた。
しばらく料理にだけ向けられていた彼の表情を見る事が出来て、なんとなく嬉しい。
「え?ナミさん、何がずるいの?」
「……あんた」
「へっ!?おれ!?」
どういう意味なんだい、なんて彼は聞くけど、素直じゃない私がそれに答えられるわけがない。
仕方ないのでただ無言で彼の表情を見つめる。