Short Story
□夢現
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目が覚めてダイニングに行くと、いつもと同じ笑顔で迎えられた。
今日はいつもより起きるの早いね、なんて言う彼に、まぁね、と小さな声で返す。
彼の意識はすぐに手元の料理へと戻り、さっきまでの笑顔はいつの間にか真剣な表情へと変わっている。
こういう時、彼が根っからの料理人で、心の底から料理が好きなんだと思い知らされる。
ソファに座ってぼんやりと上の方に視線を移すと、白い天井が視界に映る。
その色が現実味を帯びていなくて。
「ナミさん、どうしたの?」
曖昧に響いた音に、天井に向けていた視線を彼へと向ける。
彼は料理を作る手を止めて、私を真っ直ぐに見ている。
彼が見せる心配の色。確かに感じるそれさえも、不思議と現実味が無い。
「……別にどうもしてないわよ」
「何かあったんだろ?」
確信めいた口調の彼に、思わず言葉に詰まる。
真っ直ぐに見つめてくる瞳に全てが見抜かれているような気がして、これ以上嘘を重ねられる雰囲気でもない。
どうして分かるの、なんて思うよりも先に安心する。
「夢を、見たの」
「……どんな夢?」
彼が言葉を発するまでの間に何を考えたのか、すぐに分かった。
「いい夢よ」
「そりゃよかった。どんな夢だったんだい?」
声を少し大にして彼が言う。
料理を作る手は相変わらず止まったまま。
「……ベルメールさんとノジコがいたわ」
「ナミさんのお義母様とお姉様が?」
「あと、何故か仲間がいたわね」
「おれ達も?」
「そうよ。それで、みんな笑顔で、すごく幸せな夢だった」
そう、それは幸せな夢だった。
大切な人が傍にいて。みんな笑顔で。