Short Story

□秘密の空間
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ダイニングにいる事が多いのは確かだけど、特に意識してダイニングにいるわけではなかった。

ただやる事も無く暇な時。
あるいは、何かに疲れてしまった時。
無意識の内にダイニングに足が向くようになっていて、気付いたダイニングにいるようになっていた。

ダイニングにいると、心地良い。


「ナミさん、紅茶でも淹れようか?」


さっきまで書いていた日誌を閉じた所で、すぐに声をかけられた。
食糧の在庫整理や仕込みをしていたはずのサンジ君の手には、いつしかティーカップがあった。
どうやら自分の仕事をしながら私の作業の進み具合を気に掛けていたらしい。
相変わらずよく気がつく男だ、なんて思う。


「じゃあ貰おうかな」


短く答えると、サンジ君は満面の笑みを浮かべて、かしこまりました、と恭しく一礼した。
まるで流れ作業のような無駄の無い動作で紅茶が淹れられていく。それは綺麗な琥珀色を放っていて、輝いているかのよう。
差し出されたティーカップに口を付けると、芳醇な香りが口内に広がった。


「何でサンジ君が淹れる紅茶って美味しいの?」


私が淹れてもこんな味は引き出せない。
さすがは一流の料理人だと豪語するだけはある、と思う。
本人に言ったら調子に乗るだろうから、絶対に言わない。


「え?紅茶だけ?」


焦ったように言うサンジ君にさっきまでの落ち着いた雰囲気は無い。


「サンジ君の料理は全部美味しいわよ。そんなの当たり前じゃない」
「ナミさん……ありがとう!」


本当に嬉しそうに笑うサンジ君は幼く見える。普段が大人びている分、可愛く見える。
一つ年上の男に、しかも女好きに、可愛いなんて感情を持つのはおかしいだろうけど。

 
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