Short Story

□月に溺れて
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酒の強さで私の右に出る者はそういない。一味の中で私に張り合えるのは目付きの悪い剣士くらいだ。
でも、酒に強いとは言っても自分の限界くらいは把握している。酒に呑まれるような真似はみっともないから。

だから、酒に呑まれている人を見ると、少し反感を抱く。自分の限界を知らずに呑むなんて、バカのする事だと思うから。

なのに、何で私はこんな事を考えてしまうんだろう。

ソファに座っている私の膝の上には、金髪の男が乗っかっている。枝毛という言葉と無縁なその髪に見惚れてしまう。
金髪は呼吸と共に静かに上下に揺れている。


「つまみ食い…すんな……ルフィ……」


気持ちよさそうに寝ている彼は、不思議な寝言を口にする。直後、正につまみ食いをしようと企んでいたルフィが物凄いスピードで手を引っ込めた。

彼の食糧に関する危機管理能力は人並み外れて高い事はよく知っているけど、寝ている時でも気付くとはある意味凄い。
まぁ、そのおかげで私達は大食らいの船長がいても何とか餓死せずにいられるんだけど。


海を映したような澄んだ青色の瞳は、今は閉じられている。
ふと、閉じられた瞼の奥に秘められた輝きを見たいという衝動に駆られる。だけど、ずっとこのまま彼を見ていたい気持ちもある。
我ながら矛盾してるな、なんて思う。


「……なぁナミ、何とかしてくれ」


困り声を出したのは、情けなさを前面に押し出した表情をしているウソップだった。
私に何とか出来るわけがないじゃない、と怒鳴り付けてやりたいけど、大声を出したら彼が起きてしまうかもしれないので、仕方なく無言で睨み付ける。


「な、何だよ!!他の奴らだって絶対同じ事考えてるぞ!!」


しどろもどろになりながら言うウソップを無視して、周りに視線を向ける。私に向けられている視線は、好奇心であったり、呆れたものであったりと様々だけど、それらに共通して言える事は『お前ら完全に浮いてるぞ』という感情が混ざっている事だ(お子様なルフィとチョッパーだけは気付いていないらしい)。

 
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