Short Story
□言葉の重み
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心地良い眠気が全身を包んでいる。起きようと思うのに、起きなくてもいいかなとも思う。
こういう時はサンジ君が淹れる美味しいコーヒーが飲みたくなる。自他共に認める一流の料理人である彼が淹れたコーヒーを。
きっとコーヒーと一緒に口説き文句をたくさん聞く羽目になるだろうけど、彼のコーヒーは自分で淹れるよりも格段に美味しいから。
いつもより少し早い時間だけど、早起きの彼ならもうキッチンにいるはず。
まだ夢の中にいるロビンを起こさないように静かに部屋を出た。
ダイニングの扉を押し開けると、トントンという規則正しい音が聞こえてくる。キッチンには、私に背を向ける彼の姿があった。
声を掛けるよりも先に、彼が振り向いた。
「ナミさん、おはよう」
穏やかな微笑みを見せる彼。朝早いからか、いつもよりもその表情は大人しくて。
「こんな早くにどうしたの?」
彼は包丁を動かす手を止め、私の方へ近寄って来る。
「目が覚めちゃって。コーヒー淹れてくれる?」
「勿論です。座って待ってて」
彼はソファを指差した。男なのに細長くて綺麗な指だな、なんて思う。
毎日水仕事をしているから荒れていてもおかしくないのに、彼の手はいつも綺麗だ。
料理人である彼は何よりも手を大事にしているから、当たり前なのかもしれないけど。
私は彼の言う事に従い、ソファに座ってコーヒーを待った。
少しして、彼はコーヒーカップを私に渡してくれた。いい香りがする。
コーヒーを一口含むと、コーヒー豆の独特な香りが広がった。
やっぱり彼の淹れるコーヒーは誰が淹れるよりも美味しい。
「美味しい」
「そりゃよかった」
彼は穏やかに答えるだけで、それ以上何も言わなかった。いつもならメロリンだの幸せだのって叫んで大袈裟に喜ぶのに。
胸に芽生える、ほんの小さな違和感。