Short Story
□月に溺れて
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ダイニングには、彼と私の二人きり。
普段は饒舌な彼が寝ているせいか、酷く静かに感じる。とは言っても、彼は私と二人きりになると、みんなの前とは違ってそこまで饒舌ではないけど。
なんとなく手持無沙汰になったので、目を引く彼の綺麗な髪を梳いてみた。
まるで月の光を集めたように輝くその髪は、男とは思えない程きめ細かい白い肌と合わさって強烈な魅力を放つ。
「ん……っ」
髪を梳いたせいか、彼はぼんやりと目を開けた。まだ意識が曖昧としているのか、その目は焦点が合っていない。
起こすつもりは無かったけど、彼が起きてくれて嬉しさを覚える自分がいる事は否定出来ない。
「ナ…ミさ…ん……?」
少し潤んだその瞳に、私の顔が映る。そこにいる私は、幸せそうに笑っている。
きっと彼はまだ酔っている。
なら、少しくらい素直になってみようか。
「大好き」
たった一言、私の気持ちを込めた言葉を彼に贈る。それだけで鼓動は激しくなる。いつまで経ってもこの感覚には慣れない。
「おれも…だよ……」
彼の細長くて綺麗な指が私の頬に触れる。それに導かれるように、私は彼と唇を交わした。
それは、まるで啄むようなキス。