Short Story
□月に溺れて
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「…怒らないわよ。だから教えなさいよ」
「若干の間が気になるが、教えてやるか。
おれ達が気になってんのは、お前だよ」
無骨な指が私に向けられる。
「はぁ?私?」
何で私なんだろう。私は何もしてないのに。
もしかして、バカにされているんだろうか。
もしそうなら、有無を言わさず殴ってやる。
「お前のそういう顔、初めて見たな」
「え?」
「優しいというか穏やかというか、そんな愛に満ちた顔。お前、“サンジに対しては”そういう顔出来るんだな」
「――っ!!」
思わず膝に乗っている彼の頭を殴りそうになった。恥ずかしさの矛先を寝ている彼に向けるのはさすがに可哀想だから、一応やめたけど。
「フ、フランキー!!あんたねぇ……っ」
「サンジのそういう顔も、初めて見たな」
「はぁ!?」
「いつも忙しいこいつが安心しきって寝てる所なんて、あんまり見ねぇからな」
寝ている彼を見ると、しっかりと閉じられた目の下にうっすらと隈が出来ている。
彼は毎朝誰よりも早くに起きて、毎夜誰よりも遅く寝る。料理人である彼はいつも多忙で、のんびりと休憩している所はあまり見かけない。
この船で一番の働き者は彼だと密かに思っている。
彼の身体が心配になって、もっと休みなさいよ、なんて言った事もある。
だけど、彼はいつも決まって笑いながら、おれは大丈夫だから、と答える。
それが更に心配を煽る事に、きっと彼は気付いていない。