Short Story

□言葉の重み
5ページ/6ページ


目の前で眉間に皺を寄せる彼を見て、思わず溜め息が零れたのは仕方ないと思う。


「あのねぇ、あれだけ露骨に態度変えられたら気分悪いに決まってるじゃない!」
「ご、ごめん!!でも……」
「『でも』じゃない!!」
「ごっ、ごめん!!いえ、すみません!!」


必死に謝る彼は、呆れるくらいいつも通りの彼で。
私の何気ない一言に考え込んでしまうような優しい彼で。


「……やっぱり、あんたは言葉の重要性を分かってないわ」


私の一言で身体を震わせる彼。俯いた姿は普段を忘れてしまうくらい弱々しい。


「だって、あんたの言葉が私にとってどれだけ大事なのか、分かってないんだもの」


彼は不思議そうに顔を上げる。その青い綺麗な瞳であまり見ないでほしい、と思う。
きっと今、私の顔は真っ赤になっているだろうから。


「……ナミさん、じゃあ、またいつもみてぇに言ってもいい?」
「……好きにすれば?ただし、心が籠ってない言葉はいらないから!!」


こんな可愛くない言い方しか出来ない自分がムカつく。もっと別の言い方をしたら、きっと彼を笑顔に出来るのに。


「おれ、ナミさんに心が籠ってない言葉を言った事は、今まで一度たりとも無ぇよ」


真剣な瞳で射抜かれてしまえば、それに抗う術なんて無くて。


「ナミさん、君が好きです」


女好きの彼が何度も言ってきた言葉。軽々しいはずのいつもの彼の言葉が何故か重く聞こえる。心が満たされていく気がする。
私も結構重症だ、と思う。こうなってしまったら、自分の中の気持ちを認めないわけにはいかない。


「………私も」


顔なんて見られないけど。
可愛くなんて言えないけど。
あの二文字は言えないけど。
どうか、私の重い言葉を受け取って。



End.

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ