Short Story

□言葉の重み
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黙って睨んでいると、彼は視線の行き場を失ったかのように虚空を見つめた。
それから、小さく息を吐き、その瞳に私を映した。


「……何か、あった?」


まただ。心配そうな顔。心配そうな声。
そんな顔が見たいわけじゃない。


「何で態度がいつもと違うの!?私、何かした!?」


怒鳴っているはずなのに、何故か視界が歪んでいく。こんな事で泣くなんておかしいと思うから、顔面に力を入れて必死に耐える。


「……昨日、ナミさんがおれに言った事、覚えてる?」
「え?昨日?」


昨日、私は彼の態度を変えてしまうような事を言ったのだろうか。考えてみるけど、特に思い付かない。


「…何か言ったっけ?」
「……『何であんたってそんなに軽々しく何度も好きとか言えるわけ?あんたって言葉の重要性ってものが全然分かってないんじゃないの?』」


言われてみれば、確かにそんな事を言ったかもしれない。
昨日は海の状態が悪くてイライラしていたから、彼の軽口がやけに気に障った記憶がある。


「……だから、軽々しく言わないようにしてたんだけど……」


苦笑する彼の表情は酷く辛そうだ。

 
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