Short Story

□親愛なる君へ
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降り続いていた雨は上がり、分厚い雲の間から月と星が顔を出している。
火を点けた煙草のフィルターを甘噛みしながら海を眺める。
静かに揺れる波を見て、このまま朝を待ってみようか、とふと思う。


頭の中は君の姿でいっぱいで。
君を想う度に心から愛しさが込み上がってきて。

こんなに誰かを強く想うなんて、初めてだ。


いつの間にか、遠くに滲んで見える朝焼けの空。
それは、息を吞むほど綺麗で。優しくて。
よく分からない温もりが胸に込み上がって来る。
まるで臆病なおれの背中を押すかのように。


不意に、視界が歪み始めた。
誰も見てないからと、溢れる涙はそのまま放っておく。
海へと連れ去る涙の跡は、いくつもの記憶を繋いでいく。

 
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