彼女のバスケ
□第4Q
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「おお〜広〜〜。やっぱ運動部に力入れてるところは違うねー」
日向がそう言う。
日は流れ、今日は海常高校との練習試合だった。
『……火神くん、いつにも増して悪いです。目つき』
「るせー。ちょっとテンション上がりすぎて寝れなかっただけだ」
どうやら、昨夜は『やるぞ〜見てろ黄瀬〜てか早くこい明日〜〜〜』と、燃えており寝れないまま朝を迎えたようだった。
『……遠足前の小学生ですか』
そう呆れ、苦笑をこぼしたとき。
「どもっス。今日は皆さんよろしくっス」
「「「黄瀬……!!」」」
黒いシャツを着た黄瀬が、向こうから走ってきた。
「広いんでお迎えにあがりました」
「どーも」
リコ先輩がにこりと言うと、黄瀬くんはこちらへ半泣きで駆け寄ってきた。
「テツナっち〜あんなアッサリフるから……毎晩枕を濡らしてんスよ、も〜……
テツナっちだけっスよ、オレをフッた女の子は……」
『……サラッと嫌味言うのやめてもらえますか』
「だからテツナっちにあそこまで言わせるキミに……テツナっちを落としたキミには、ちょっと興味あるんス」
「落と……っ!?」
「ま、「キセキの世代」なんて呼び名に別にこだわりとかはないスけど……あんだけハッキリケンカ売られちゃあね……」
「テツナを落とした」、と言う言葉に驚く火神をよそに、黄瀬は言葉を続ける。
「オレもそこまで人間できてないんで……悪いけど本気でツブすっスよ」
「ったりめーだ!」
「テツナっちのことだって、渡さないっスから」
『別に火神くんとはなにも、』
「ハッ。上等だ」
『火神くんも否定してください』
テツナの否定の言葉は、その後の2人の言い合いによりスルーされていた。
(まさか火神君って……!?面白いことになってきたわね……っ!)
(カントクの目が生き生きしてんだけど)
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「あ、ここっス」
案内された体育館は、片面に区切られたコートだった。
「え?……片面……でやるの?」
もう片面を見ると、そこは練習中だった。
不思議に思っていると、海常高校の監督、武内がやってきた。
「あぁ来たか。ヨロシク。
今日はこっちだけでやってもらえるかな」
「……こちらこそよろしくお願いします。……で、あの、これは……?」
リコの問いに、武内は答える。
今日の試合は、海常は軽い調整のつもりだと。
だが出ない部員に見学させるには、学ぶものがなさすぎると。
無駄をなくすために、他の部員には練習をしてもらっているということを。
「だが調整と言ってもウチのレギュラーのだ。トリプルスコアなどにならないように頼むよ」
そう、つまりは練習の片手間に相手してやる、と誠凛をナメてかかっているのだ。
誠凛の誰もが米神を引くつかせた。
そんなこちらのことには気づかず、武内はユニフォームへと着替えていた黄瀬へと声をかけた。
「黄瀬、オマエは出さんぞ!」
「え?」
「各中学のエース級がゴロゴロいる海常の中でもオマエは格が違うんだ」
「っちょ、カントクやめて。そーいう言い方マジやめて」
「黄瀬抜きのレギュラーの相手も務まらんかもしれんのに……
出したら試合にもならなくなってしまうよ」
ふう、と溜息をつきながら言った。
「「「なっ……!!」」」
「すいませんマジすいませんっ
大丈夫、オレベンチには入ってるから」
武内の後ろ姿を指さし、黄瀬は慌てたように言う。
「あの人ギャフンと言わせてくれればたぶんオレ出してもらえるし!オレがワガママ言ってもいいけど……。
オレを引きずり出すこともできないようじゃ……「キセキの世代」倒すとか言う資格もないしね」
「オイ誠凛のみなさんを更衣室へ案内しろ!」
武内がそう声を出し、移動することになった。
近づき、クイッと黄瀬のユニフォームを引っ張る。
「っ!な、なんスか?」
『……? アップはしといて下さい。
・・・・
出番待つとかないので』
身長差で上目遣いになっていることに気づかないテツナは、顔が微かに赤くなっている黄瀬を不思議に思いながらも、そう言い放った。
『そんなヨユーはすぐになくなると思いますよ』
クスリ。黄瀬が笑った。