ぬくもり

□第6話
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「リナちゃん、ちょっとリナちゃん」

『……………』

風が気持ちいいな…

「ちょっとリナちゃん!」

『……あ…私…?』

「あんた以外に誰がいんだい。ぼーっとした面白い子だね。昨日はよく眠れた?」

…あ、そうか…私の名前サクラじゃなくてリナなんだ。なれない…

「あんた城の女官なんだってね。城で料理も裁縫も掃除も洗濯も琴も舞も出来なかったから追い出されてここで修行するって?そりゃアンタもう女やめな〜」

『…………うーん…』

「そこで悩むのかい!全く本当に変な子だねぇ」

そう言うとおば様は私に山ほどの洗濯物を渡した。

ドサッ

「とりあえずイチから教えるから、まずコレを洗っといて」

『あ、洗う…って…?』

「川で洗うに決まってるだろ」

『川って……どこに…』

おば様は私の問いに答えることなくスタスタと歩いていってしまった。

『…………重い…』

場所分からないし…とりあえずここら辺徘徊しよう。

そう思い、歩き出そうとすると急に腕が軽くなった。

『奇術…』

「んな訳あるか。こっちだ女官殿」

どうやら奇術じゃなかったらしい。いつの間にか隣にハクがいて洗濯物の3分の2ほどとって持っていた。

『…………』

「何ですか?」

『ぼーっとするのは負けない』

「何の話ですか?」

『私が何もできないヤツってこと』

そう言うとハクは納得した顔をした。

「あながち間違っちゃあいないでしょ」

『うん。琴と舞はやったことあるけど正直事は不協和音だったし舞は酷すぎて記憶にない』

「俺はしっかり笑わせてもらいましたけどね。だけどぼーっとするのに勝ち負けあるんですか?」

『勝者、私』

「アンタのなかではあるんだな。わかったわかった」

『ハクの負けー』

「別に勝っても嬉しくないが負けても何故かムカつくな」

そう言うとハクは足を早めて私の少し前を歩いた。その時ハクは自分自身と話すように言った。

「少し戻ってきたな」

『……?…あ、ハクの優しさが?それはよかったよかった』

「ちげーし大きなお世話だ」

あ…やっぱ可愛くない。どうしてこんなに可愛いげがないんだろう。弟のテヨンはすごく可愛いのに。

『ハクに似なくてよかったね』

「また話ぶっとんでますよ」

『私の雰囲気で察知して』

「無茶言わんでください」

ハクは呆れた顔で歩きながら振り向いた。そんなハクに私は説明を付け足してあげた。

『ハクに弟いたんだって。だから…可愛いげがないとこ似なくて良かったなぁっと…』

「若干トゲあんな…テヨンは俺と同じじっちゃんが拾って来た子なんですよ。じっちゃんはみなし子放っとけないからなー」

ムンドクは昔から優しいから…私もムンドクによく遊んでもらった…なぁ。

「テヨンは俺と違って体が弱い。だから特別皆が大事にしてるんです。昨日はちょっとはしゃぎすぎてたな」

『……ごめん、私が…』

「アンタは何も悪くねぇだろ。それにテヨンは楽しそうにしてたしいーんじゃねーですか」

『…テヨンと沢山お話しした…楽しかった』

「…それはよかったじゃないですか。さて、着きましたよ」

ハクは立ち止まると私から洗濯物をとって地面へまとめて置く。私はその時、川があるであろう方を向いていた。

「そこの川で洗濯するんです」

『……そこの川?』

「そうです。ここの川は風の部族にとって命の水だから大事に…」

『ハク……』

「はいはい、何ですか」

私は面倒くさそうに言うハクに背を向けて口を開いた。そして川の中へ一歩踏み出した。

「っ何をしてんだ!」

そう大きな声を出してハクは私の方へ走ってきた。でもその時私は既に川の中。

正しくは、“川のあった場所”

『洗濯できないよ………水がない…』

「川が…枯れてる…!?」

風の部族の、命の水が枯れた。
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