ぬくもり
□第6話
1ページ/2ページ
「姫様見えてきましたよ、風の部族。風牙の都です」
山を歩き続けて見えてきた。小さいけれどとても清んだ空気の場所だった。
「行きますよ」
ハクは何も変わらない様子でズンズンと歩いていく。私も迷子にならないようにハクの後ろをくっついて行った。そしてたどり着いたのは出入口だと思われる門。
そしてそこには…
グォ〜
「「Zzz」」
……寝てる…
ドカッ
門番らしき人が2人いて、ハクは何の躊躇もなくその2人を蹴り飛ばした。
「なになに!?」
「イタイイタイ…」
「見張りはお昼寝の時間かこの部族は」
「あっ」
ハクに蹴り飛ばされた2人の内一人は最初は何があったのか驚いていたけど、ハクの顔を見たとたん反応が変わった。
「ハク様?」
「よ」
知り合い…?あ、…そういえばここハクの古郷…だっけ…?
「へー久しぶりー10年ぶり?何でいんの?」
「将軍クビになったの?明日があるさ」
「相変わらずユルいな。因みに3年ぶりだ」
え…ハク…いつ、
「一応まだクビじゃねーですから」
バッ
『わっ…』
ハクは私の心の声を察知してか、私が被っていたフードを更に深く被せた。
こんなやり取りをするなか、目の前の2人はまだ夢の中なのか私とハクを気にすることなく目を閉じてへろへろしている。
「我らは風の部族。風の赴くまま逆らわずに生きるのであります〜」
「誰だこんなヤツら見張りにしたの」
完全に呆れた目で見るハク。その時、女の人の声が響いた。
「長〜っ」
そして“長”と呼ぶ声は一つだけではなかった。気づけば私達の周りに女の人たちがたくさんいた。
「若長〜」
「ハク様」
「お久しぶりですーっ」
「いつ戻ったの?」
「やだ、ますます男前になっちゃって♡」
女の人たちは一瞬にしてハクを取り囲んだ。そしてその内の一人が私の存在に気付いた。
「あら、誰この子?」
「ハク様の女?」
「えーっ」
「違う。城の見習い女官だ」
「嘘だー」
「名前は?」
「出身は?」
『え……っと……』
いっぺんに色んな事を聞かれた私は頭の中がパンク寸前だった。
そして、ふと身体の力が抜けた。
ガタン
「わっ、倒れちゃった」
「どうしたの?」
「あれま、弱っちい娘だな」
そんな会話の数々がうっすら聞こえてきた。だが、次の瞬間お馴染みの温かさに包まれ、私はそこで意識を失った。
『……ん………』
どこ……?
目を覚ますと見たこともない部屋に一人、私がいた。そして私は布団から出ようとして体を動かした。その時ふわっと石鹸の良い香りがした。
新しい服……誰かが着せてくれたんだ。……あったかい。
腕を少し伸ばしてみる。その時、布団のそばにお膳が置かれていることに気が付いた。
『ご飯……誰の?』
誰のものか分からないご飯を私はじーっと見つめて考えた。すると襖がすーっと少しだけ開いた。
そこから出てきたのは小さな男の子。
「お前のだ」
…私の?
男の子はそれだけ言うとトテトテと私のそばまでやって来た。そして小さな釜の蓋をとって私にスプーンを差し出してきた。
『私が食べてもいいの?何も…してないのに…』
「じゃあ俺が食べさせてやる」
『……ん?食べさせて…?』
「ほら、あーん」
『あ……あー…ん…』
私は男の子の押しに負けて言われるがまま口を開いた。そして温かいものが口のなかに広がった。
ゴクッ…
『…おいしぃ……』
昔風邪を引いたとき父上が作ってくれたのと同じ。味は違うけど、同じ。
……温かい…
私の目から涙が流れた。
「……なんで泣くんだ?ま…不味かった…?」
『不味く…ないよ……とても温かい…』
「温かくて泣くのか。変なヤツだな」
『うん…変……でも…父上を…思い出して』
そう言って私は目を伏せた。
もう父上はいない……会いたくても…もう……会えない……二度と…
その時足に若干の重みを感じた。そして次の瞬間小さな手が私へのびてきた。
男の子は優しく、私の涙を拭ってくれた。
「俺はテヨン。ハク兄ちゃんの弟だ」
『え……弟…?ハクの…』
「お前はハク兄ちゃんの友達か?」
『友達……?』
真っ直ぐ見つめて答えを待っているテヨンに対して、私は少し考えた。
ハクの友達……私がハクの……んー……
「…………………………たぶん……?」
ガラッ!!
「「たぶん友達ーッ!?」」
『………あ、寝てた人たち』
2人は盗み聞きしてたのかいきなり襖を開けて入ってきた。そして涙を流し“テウです”“ヘンデです”と言いながら布団のそばまで来た。
「そんな…愛人とか恋人とかは無理にしても…」
「たぶん友達って視界にも入ってねーっス。疑問系だったし…あわれハク様、超片想い「目ん玉ほじくったろか」
グシャ…
あ……潰れた。
ハクはヘンデを大刀の先で潰した。ヘンデはぺちゃんこ。
「…誰が友達だ」
『…ん?誰と誰が?』
「通常運転に戻りつつあるな。さっきまで俺とあんたの話してただろ」
『…あぁ…うん…うん?…してたよね。……ね』
「忘れてたろ」
『忘れてないよ……うん。でも私とハクが友達じゃあ…なかったら……従者…とか』
バッ
『っ…』
まだ私が喋っている途中なのに、ハクは半分私に覆い被さりながら自らの手で私の口をおさえていた。
そして小声で話してきた。
「あんたの名は“リナ”。城の見習い女官という事になっている。俺もここでは女官として扱う。いいな?」
『………』
コクコク…
「よし…いい子だ……」
そう言いながらハクはふと横を見た。するとテウとヘンデが興味津々な様子でこちらを見ていた。そしてテヨンは何故かテウに両目を隠されていた。
「テヨンが見てマズイ事はなんもしてねーだろーがっ」
ドカドカッ
「だって何かやらしいよハクさまー」
『やらしいの……ハク?』
「こいつに変な事教えんな!冗談か本気かわかんねーけど全部丸のみしちまうんだよっ」
そう言ってまたテウとヘンデをドカドカと踏みつける。そんな様子をスルーしてテヨンが私に話しかけてくる。
「リナ。兄ちゃんは城ではどんな人なの?」
『お城…で?』
「俺が3歳の時に兄ちゃんは将軍になってお姫様を守ってたから、俺兄ちゃんの事あんまり知らねんだ」
『そっか……お城でのハク…は……』
“頭が変ですね”
“あんた本当に姫か?”
……………
『無礼者……あ、イヤ…無神経…あ、えと態度でかい……あ、ううん可愛くない……あ、違う違う、意地悪性格悪い態度も悪い……あとは…』
「よーし、わかった。もういい」
「「ぶひゃっひゃっひゃっリナさん最高〜っ」」
『え…まだあるのに…』
「「まだあるのかっ!!!!」」
そう言って2人はお腹を抱えて笑い始めた。もう笑い涙すら流している。
「かっかっかっかっ可愛くないときた!」
「そりゃ可愛くねーわ!!」
「楽しそうだなヘンデ。こっち来いや」
「キャーッ」
みんな、笑顔で賑やか……これがハクの育った場所なんだ……
なんかほわほわして…とってもあったかい。
ここは温かくなる……あったかい場所…
「リナもう起き上がって大丈夫?大丈夫なら俺と話そう」
『うん……お話しよう』