ぬくもり
□第5話
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―――ハクside―――
「食わないんですか?姫様」
『……………』
「…魚が嫌なら鳥でも捌きましょうか?」
『……………』
「…少しでも食べた方がいいですよ。ここから先山道がさらに険しくなる。食糧が確保できるかわからない。ここは魚があるだけマシだ」
時間がたつにつれどんどん弱ってゆく。
サクラはあれだけ食べることが好きだったのにあれから一切口を開こうとしない。
力尽きたように何もない空間をぼーっとただ見つめるだけ。
あののほほんとした穏やかなサクラの面影はもうない。
しょーがねぇ……せめて水浴びだけでもさせるか。
ハクは反応のないサクラの手を引き水場まで連れていった。サクラはハクの発する言葉に頷くだけだった。
そしてハクは一通りの説明をすると岩を背に見張りについた。
…体力だけじゃない。時間が経っても現実を直視出来ないんだ。陛下の死と、スウォンの裏切りを。
バャシャッ
『ぁ…』
「!!」
ハクがひとり思い悩んでいると後ろから水しぶきの音と、か細いサクラの声が聞こえた。
ハクは即座に反応し振り向いた。そこには水からあがって岩の上に裸で座り込んでいるサクラがいた。
そしてサクラの足には蛭がついていた。
『なんか……ついた……』
なんかついた、ね。不意に出る言葉は前のままなんだな…
「蛭です。じっとして」
そう言ってハクは彼女の足についた蛭を一匹一匹丁寧にはがした。
「こいつは池や沼に住み血を吸っうんですよ。なに、大事には至らねぇ……っ」
しまった…姫さん素っ裸だった…
「…服ここに置いておきます」
そう言ってハクはくるっと周り元の場所へ戻った。
…くそ。余計な事考えんな。この先ずっと姫さんを連れて行かなきゃならんのだぞ。
この先、ずっと。
姫さんはあのままだろうか?食事もせずただ俺に手を引かれて歩くだけ。まるで人形だな。
「満足か…?」
共に過ごした日々も
妹のように大事にしていた姫さんも
全てを壊して
お前はそれで満足なのか?
スウォン。
ハクは眉間にシワを寄せながら苛立たしげに立ち上がった。その時足に何かが当たった。
カラン
これは…宴の時スウォンが姫さんに渡してた…まだこんな物を持って…
「…………」
グッ…
ハクは簪を力強く握りしめた。