ぬくもり

□第4話
1ページ/2ページ


――雪が降っている…これは私の小さい頃の…母上を亡くしてから間もない頃の……夢…――



「サクラほら見て。雪ですよー」

『うん…』

スウォンは私の顔を見るとしゃがんで雪を掴んだ。

「お団子出来ましたつっ」

『そうだね…』

「何だか奇怪なもの出来ましたっ」

『そうだね…』

「…サクラ」

スウォンは自称奇怪なものを持ちながら心配そうな顔をした。

『大丈夫。元気だよ。ほらっ』

ムギュ

「ぐえっ」

「ぐえ?」

『……何か踏んだ』

下を見てみると私の足の下にハクがいた。

「重い」

『…ハクここお布団じゃないよ』

「知ってるっつーの」

「わーいハクだ♡」

スウォンはハクに気がつくとハクの元へ駆け寄ろうとした。

「寄るんじゃねーっ。姫さん足元に気ィつけろよ。せっかくいい気分だったのに」

『なんで雪の上で寝てるの?やっぱりお布団と間違えてる?』

「だから違うっつーの。俺は俺の生きた証をこの大地に刻んでたんだよ。降り積もった白い雪があったらまず大の字になって寝てみたくなるのが人情ってもんだぜ」

…どうしよう。何を言ってるのかさっぱり分からない。とりあえず…

ボスッ

「っ!!」

『雪だんごの的になってくれるんだ。ハクってば優しい』

「ほーう…」

ボスッ!!ボスッボスッボスッ!!

「さすがハク。サクラが元気になりました。私もまぜて〜」



―――次の日―――

『けほけほっ…』

「サクラの元気がなくなりました……」

次の日私は風邪を引いた。顔が熱くて頭がぼーっとしている。

「雪ん中での遊びは姫さんにはキツかったか」

「ごめんねサクラ…」

「お薬を飲んで安静になされたらよくなりますよ」

『…ねぇ父上は?』

私が医務官にそう聞くと医務官は何かを誤魔化すような焦った顔をした。

「陛下は今お忙しくて。まだ登極されて間もございませんし。ですがじきお見えになりますよ」

そう言って医務官は部屋を出ていった。

父上…忙しいんだ…

「だいかですよサクラ」

「あの王様姫さんが病気つったら飛んで来るぞ」

『うん。それより二人とももう帰りなよ。うつっちゃうよ』

「平気ですよー。私元気ですから。今身体ポカポカで」

「俺なんか遊びすぎてまだ雪団子の幻が見える」

…それって、

グッタリ…

『医務官ー病人でたよーっ!』










「「『げほげほっ…』」」

雪遊びはもうしない。危ないよあれは。

「どーりで雪団子が俺の周りを飛んでると思った…」

『二人とも…帰らなくていいの?』

「病を流行らせないようにここで治した方が良いらしいです。でもサクラとは最近ずっと手を繋いで寝てるしいつも通りですね」

そう言ってスウォンは私の方を向いてにこっと笑った。

「…そんな事してんのかお前ら…」

『ハクも手つなぐ?』

「いやいい…やっぱ俺帰るわ」

「えっハク。三人で手つなぎましょうよー」

「冗談…」

そう言ってハクは布団から出ようとした。その時、足音が廊下から聞こえてきた。その足音はどんどん大きくなっている。

ドカドカドカドカドカッドカドカッ!!!!

バターンッ

「ハクーッ!!!」

「わーッ」

ものすごい勢いでムンドクが部屋の中に入ってきた。

「じっちゃん!?」

「小僧。姫様に雪をぶつけて病にかけたらしいな」

「そこに雪があったら投げるのが礼儀だろ!」

「小童め!尻を出せムチ打ちじゃああ!!」

「いやぁあぁあそれだけはホントにいやああああぁあ」

「将軍っお止めください病人ですよ」

そして医務官に怒られたムンドクはおとなしく帰っていった。

「…やっぱ俺ここにいる…」

『ムンドクは今日も元気だったね』

「元気っつーか……もう帰ったら殺される…」

「あれは…っ風の部族長ムンドク将軍ですよね」

隣で真っ青になっているハクに対してスウォンはとても笑顔だった。

「そうだけど」

「近くで初めて見ました。五将軍最強といわれるムンドク将軍。私の憧れなんです。ハクのお祖父様だったなんて」

「俺は孤児だ。じっちゃんとは血繋がってないぞ」

「そうなんですか」

「俺は養子としてじっちゃんの部族に世話になってるだけだ」

知ってるよ。でもね…

『ムンドクきてくれたよ。ハクのことすきなんだね』

「…どうかな」

ハクは素直じゃないなぁ。

そんな会話をしているとまた足音が聞こえてきた。

ドシドシドシドシ

「また何か来た」

ガタッ…

「ち…父上…けほっ」

ユホン伯父上だ…

「どうしてここに…」

「病にかかった息子を見舞ってはおかしいか?」

「病が父上にうつってしまいます」

「お前の病ごときに俺が負けると…?」

「いっいえっ。でも今はとてもお忙しい時期だと…」

ユホン伯父上…強くてかっこいいけど少し怖い…かな…スウォンとは全然違う。

「ヨンヒが来るといってきかなかったのだが」

「母上が…っ!?」

「あの身体で病をもらっては危険だ。屋敷に置いてきた。母親に心配かけるものではない。病など早急にぶち殺せ」

「はいっ」

ぶ…ぶち殺す…?

「お前たち…」

ビクッ…

「後で見舞いの品を届けさせよう」

『あ…ありがとう…』

ユホン伯父上はチラッと私を見ていって部屋を出ていった。

「…っっさすがな迫力。一気に熱下がった気がする」

『でもハク顔青いよ?』

「そーゆー姫さんだって顔真っ青だぞ」

『これは生まれつきだよ』

「どんな生まれつきだよ」

私とハクが顔を青くしているその隣ではスウォンが幸せそうに笑っていた。

「今日はなんて幸せな日なんでしょう。よーし、がんばって病をぶち殺します。えいえいっ」

「寝ろアホ」

『…………』

…ハクにはムンドクがきてくれた。スウォンにはユホン伯父上がきてくれた………私には……

父上…まだかな。









「姫様どうか一口だけでも」

『今はほしくない…』

私は目の前に並ぶ料理に手をつけられずにいた。

「サクラ少しは食べないと」

「姫さんますます不細工になんぜ」

『…………』

シーン

私は箸をとることのないまま、ただぼーっとしていると廊下から話し声が聞こえてきた。

「陛下はお見えになってないのか?」

「ええ。姫様の事はお伝えしたのですが…」

「あの御方の事だ。病を怖れて我が娘にすら近づけないのではないか?」

『…っ………』

そんな……こと…

「黙りなさい!!」

突然スウォンが大声をあげた。すると話し声もやんだ。

大声を出すなんてあまり良いことじゃないけど、この時私は少し嬉しかった。

「王は王だからな。こんな時にちゃんと仕事してんだから俺はあのおっちゃんの事見直してんぞ」

『……うん』

ハク…スウォン…ひとりだと思ってごめんね。

「今日は三人くっついて寝ましょー」

「来んな病がうつる」

『もう病人だよ』
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ