ぬくもり
□第1話
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ここは
高華王国
そして
かつての
私の城
緋龍城は
当時
王の他には
世継ぎの皇太子も
世継ぎを産む皇后も無く
ただ
齢十五の皇女が
大切に大切に
育てられていた
『わー今日もくりんくりん。変』
私は指に髪を巻き取る。今日も相変わらずのもはもは。
「変じゃないとも。サクラの美しさはどんな宝石も敵わんさ」
『父上は一々大袈裟。私なんて髪以外そこら辺にいる一般ピーポーと同じだよ。母上はサラサラの黒髪だったのに。もはもはしててちっともまとまらない』
「そんな事ないだろう…なあハク」
じゃあその額に浮かぶ冷や汗は何なのかな父上。
そんな父上の後ろでひざまつく男が一人。
「ええイル陛下。姫様のお髪が変などと誰が申しましょうか。あえて申し上げるなら…」
そしてこの男は…
「頭(ノーミソ)が変ですね」
ただの無礼者。
『うるさいデカブツ。父上こいつ従者のくせに態度でかすぎ』
「まぁまぁ。ハクはお前の幼馴染みだろう。それにハクは18にして城でも指折りの将軍で護衛にはうってつけ…」
『そんなの知らない。こんな可愛いげのない護衛イヤ』
「可愛いといえば、いいんですか?可愛くしとかなくて。お着きになったみたいですよ、スウォン様」
『スウォンが?』
スウォン。小さい頃からいつも私のそばにいて優しかったスウォン。三つ年上の私のイトコ。
でもだからといって…
『今更だしいいんじゃない?』
恋愛感情は全くない。
「言うと思いました。もう女として皆無ですね」
『女の体してれば女。それでよし』
「…イル陛下、俺姫様の将来が心配です」
「馬鹿をいえ…私の方が心配だ……」
そう言って二人は明後日の方向を見つめた。
んー…でもお出迎えぐらいした方がいいのかな?一応お客様だし、ココ私の家だし。うん、よし。行こうかな。
私は明後日の方向を見つめている二人を残して部屋を出た。そして適当にトコトコ歩いているとお目当ての人を発見。
『やっほースウォン』
右手をあげて名前を呼ぶとスウォンはこっちを向いてニコッと笑った。
「サクラ。相変わらずほわほわしてますね」
『それは髪のことを言っているのかな?』
「いえ、そんな…全部引っくるめてですよ」
それはどうも。笑顔で人の傷をえぐるのが上手ですね。
「それにしても珍しいですね。サクラがわざわざ出迎えに来るなんて。久々の光合成ですか?」
『私一応人間なんだけどな。でも自分から出てきた』
「わぁ、えらいえらい」
そう言ってスウォンは私の頭をなでくりなでくりした。
ボサボサになるからやめてほしいな。もう手遅れだけど。
『今回はいつまでいられるの?』
「一週間後にあるサクラの誕生日までですよ。その為にきたんだから」
『誕生日…?……あぁ、うん。誕生日ね誕生日。私の』
「その様子だと忘れていましたね。確か去年も…その前も……毎年ですね」
『いや、ちゃんと覚えてたよ』
「嘘はいけませんよ」
『今思い出したから嘘じゃないよ』
「やっぱり忘れてたんですね…」
そう言ってスウォンは苦笑いをした。
「やーでも早いものですねぇ。こんなほわほわしているサクラがもう16になるなんて…信じられません」
『最後だけ真顔でいうのやめてほしいな。地味に傷つくよ』
「そんなつもりじゃあ…アハハ…それよりイル陛下とハクはどこです?」
『あっち』
「なんてアバウトな…あっちですね」
スウォンはそう言うと私の指差した方に行ってしまった。
「もう少し具体的に教えて差し上げれば宜しいのに」
わ…ハクいつの間に。
いつの間に現れたのか、私の後ろでハクが肉まんを食べていた。
『だからあっちって「それがアバウトなんですよ」えぇー』
ちゃんと教えたのに。あっちって言えば大体分かるでしょう。……あれ、分かんない?いやいや…スウォンなら分かってくれるはず。…はず。
『あ、肉まん食べたい。半分ちょうだい』
「あんた本当に姫か?」
―――次の日―――
『ミンスー一緒にお菓子食べよ』
「いえ私は…それよりせっかくスウォン様がいらしているのですから、スウォン様たちとお食べになられたら宜しいのではないでしょうか?」
『…あ、そっか。スウォンいるんだった』
「姫様…」
ミンスはお茶をのせたお盆を持ちながら涙を流した。
『泣かないでよ。ほら、お菓子食べる?』
「お菓子より!スウォン様ならハク将軍と外におられるので様子を見に行ったら宜しいのではないですか?ていうかそうしてください!スウォン様が可哀想すぎます…」
『何で?』
「(分かっていないところが可哀想です…)」
『いい天気だなー』
「サクラ…空じゃなくて向こうを見なさい」
『ハクとスウォンのらぶらぶっぷりは知ってるから大丈夫だよ父上』
ハクとスウォンは馬に乗って弓を射っている。そんな様子を私は父上と一緒に眺めている。
「まぁまぁ、あの二人も久々に会ったんだし同い年だから気も合うんだろう」
『まるで恋人だよね。付き合ってるのかな』
「それは無いと思うぞ」
『やっぱり?』
そんなくだらないことを父上と話していると、馬に乗ったスウォンが寄ってきた。
「サクラいらっしゃい。馬に乗せてあげます」
「スウォン!」
「大丈夫です。馬に乗るだけですから」
『今日はいいや。この前ハクに乗せてもらったから…あ』
「えぇ!?ハク!!」
「姫様…言ったら駄目だとあれほど言ったじゃないですか」
『ごめん、でももう遅いよ』
そう言ったらハクは顔に手をついてため息をついた。その横でスウォンは苦笑いをする。また私の横では父上が頭を噴火させている。
あとで私の分まで怒られてねハク。
ザァーッ
空から大粒の雨が落ちてくる。雨が降りだした。
『じめじめー』
「イライラするんで黙ってもらえますか」
ハクはそう言いながら腕を組ながら外を見る。
『だったら耳を塞げばいいでしょう?耳栓持ってこようか?』
「どーぞお構い無く。姫様こそ大丈夫ですか?その頭。椿油でも持ってきてそのぼはぼはの頭にぶっかけて差し上げましょうか?」
『いらない』
本当にハクは意地悪だよね。スウォンと同じ年なのに全然違う。…そう言えばスウォンって…
『まだ結婚しないのかな?』
「は?」
『なに?』
「姫様…また心の中で一人で喋っていたでしょう。いきなり話ふられても分かんないんですけど」
あれ、今言葉に出してなかった?
『スウォンってもう18でしょ?結婚しないのかなって』
「さぁね。縁談の話くらいあるんじゃないですか?」
『だよねー。スウォンが結婚したら遊べなくなっちゃう。その時はハクが代わりに遊んでね』
「冗談はその髪だけにしてください」
そう言いながらハクはミンスが持ってきたお茶に口をつけた。すると父上がやってきた。
「他人事ではないよサクラ」
『父上』
「じきお前は16だ。婚約者がいてもおかしくないだろう。いずれ話そうと思っていた」
『そうだね。でも知らない人と結婚するのは嫌だな』
私がそう言ったら、父上はいつもののほほんとした表情から真面目な顔にかわった。
「サクラ。私はこれまでお前が望む物は何でも与えて来たよ。美しい簪に耳飾り。離宮に花の庭園。武器以外の物は何でも。しかし、お前は高華王国の皇女。お前の夫となる者はこの国の王となる者だ」
『うん、分かってるよ』
「……意外と聞き分けがいいな」
『ミンスーお茶おかわり頂戴』
「………サクラ?」
『父上もいる?』
「イル陛下、姫様はこの通りぬけていらっしゃる。何を言っても無駄だ」